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月の見えない部分

どのような業界にも表があれば裏がある。

このように書くと、それには複数の顔があるように感じるが、実際のところは月のようなものであるとも考えられる。業界にはただひとつの実体があるだけで、それが外から見えるのはある一面だけ、ということなのではないだろうか。

このように考えると、一般的に“裏”と考えられている部分も、あるいは“必要悪”なのかもしれない。そういった裏側が存在することで初めて、美しい満月を地球にいる我々は楽しむことができるのだ。

そんなふうに世の中を捉えるようになったということは、きっと歳をとったことの証拠だろう。もう少し若い時であれば、そういった“裏”の存在に腹を立て、場合によっては「日本を今一度せんたくいたし申候」などと口走っていたかもしれない。まったくもって、私も丸くなってしまった。


“美しい一面”だけを見てフレグランス業界に足を踏み入れたわけではないが、業界で見聞きしたことから導き出される朧げな実体は、あまりにもお粗末な姿であるように私には感じられる。

その元凶は、ブランドのディレクターにあると思料する。ブランドのコンセプトを決め、調香師と共に香りを作っていく人々の、香りに対しての愛の欠落を見ることがままある。例えば、フレグランスブランドのディレクターと話していて、どの香水が素晴らしい、とか、どの香りに影響を受けた、といった話題になったことはただの一度もない。ディストリビューションとか販売戦略とか、そんなことばかり口にするのだ。彼ら彼女らの中で、どれほどの人が身銭を切って香水を買い漁ってきたのかは、正直なところよくわからない。


「この香水、最初の瞬間だけはいいんだけど、そこから先はあんま好きじゃないんだよね」

この発言は、とあるフレグランスブランドのディレクターが、自身が手がけた香りについて述べたものだ。「自分がさして好きでもない香りを、お金をかけて製造して販売する心理を述べよ(100字)」という問題が出題されたら、私には逆立ちしたって回答できないのだが、それは私がナイーブであるからなのだろうか。誰かこの問いに対する適切な答えを教えてほしい。「お金儲け」や「有名になるため」であれば、もっと他のやり方があるだろうのに、なぜわざわざ特段愛も情熱もないフレグランス業界に参入してくるのだろうか。不思議でならない。

この発言は私をがっかりさせたのはもちろんなのだが、どこかで「自分がさして好きでもない香水を作っている人ばっかりなんだよな、この業界」という諦念を抱いている自分がいた。ここまではっきりと自身のクリエーションにネガティブなコメントをしたのを聞いたのはさすがにはじめてだったが、こういったニュアンスの言葉は今までも何度も耳にしたことがあるし、そもそも自分のブランドの香りにまったく興味を示さないディレクターも少なくない。

それをディレクターと呼んでいいのかはよくわからないが…


どこにどういった情熱があってブランドを運営できているのかは私の理解の範疇を超えているが、きっと香りのクリエーション以外の何かをしたかったのだろう。それを弾劾する気持ちは、私にはなくなってしまった。そういうものが“月の裏側”にありながらも、実際にそのブランドの“月の表側”は煌々と照らされていて、多くのファンを獲得している。そのファンたちがそのブランドの何に魅力を感じているのかはあまりよく知らないが、消費者を幸せにしている(はず)という点において、そのブランドには社会的に価値があるのだろう。

そういうものなのだ、きっと。


最後に、念の為書いておくと、çanomaの香りに欠点がないとは言わないし、より好きなものは確かにある(たまに「自分の作品に優劣をつけることはできない」という主旨の発言をする作り手がいるが、あれは絶対嘘だと思う。やはりよりよく出来ていると感じるものはあるはず)。ただ、私はçanomaの全ての香りを愛しているし、ブランドを構成する上で、どれも欠けてはならない大切なピースだと思っている。

そうじゃないと、こんな大変な仕事できないよ。


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