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4:6

展示会での店頭接客が終わった後、その足でçanomaの取扱店のひとつ、青山のcoelacanthに向かった。展示会そのものは充実しているのだが、疲れ果てていた私は、仕事とは関係のない話を誰かとしたかったのだ。

coelacanthも取扱店、つまりは私のお客さんなので、仕事の一環といえばそうなるのかもしれないが、私はただ無駄話をしにいくテンションでお店へと向かった。私たちはすでに、それがいいか悪いかは別にして、そういう関係になっていた。

お店で話したのち、渋谷のスープカレー屋で夜ご飯を一緒にした。夜10時の閉店までいたので、計2時間半ほどあれこれくっちゃべっていたことになるだろうか。真面目な話と馬鹿話の比率が4:6くらいなのがちょうどいい。とてもいい気晴らしになった。

coelacanthの店主をはじめとして、仕事を通して出会った人の中でプライベートなことまで共有できる方が多くいる。私はどうやらそういう方々に日々救われているようだ。ブランドを運営していると、仕事とプライベートの境目は限りなく曖昧になってくる。純度100%の仕事も、完全無欠のプライベートももはや存在しない。多かれ少なかれ、少なかれ多かれ、両方がまぜこぜになっているのだ。だから、先の「4:6」の比率で話ができる人と一緒にいるのが一番快適なのだろう。しょうもない話をしながらも悩みが共有できる、素晴らしい仲間なのだ。


いい時間を過ごしたのち、LUUP(電動キックボード)に乗って家に向かった。踏切に差し掛かる15メートルほど手前でカンカン鳴り始めたので、私は速度を緩めてまだ降り始めていない遮断機の前で停車した。そのままのスピードで十分渡り切れるくらいの余裕はあったものの、万が一それによって誰かに迷惑をかけるのは私の望むところではない。そもそも、普段から踏切が鳴ったら立ち止まる習慣がついているので、私にとってはいつも通りの自然な行為だった。

私の横をすり抜けて踏切を越える自転車が何台かあった。彼ら彼女らは、問題なく渡れていた。

遮断機が降りはじめて少しして、飲んだ帰りだと思われる中年の男女4人組が私の対岸から踏切を渡り出した。「まだ大丈夫だ」という男性の声が聞こえた。

ただ、彼ら彼女らが私のいる側に到着する前に遮断機は完全に降りてしまった。私よりも少なくとも一回りは上の4人は、わーわー喚きながら、踏切を跨いだり、あるいは下をくぐったりしながら、私の目の前で哀れな姿を晒し出していた。

私の側の遮断機の中央に目をやると、その男女4人よりもさらに遅れて踏切に入り込んだと思われる自転車のおじさんが、遮断機を押しながら何とか踏切の外に出ていた。


この時にふと思った。きっとこの人たちは、大きな通りの赤信号で、車が全く通っていなくても渡らないんだろうなぁ、と。

普段は何の理由もなく、盲目的にルールに従っている彼ら彼女らが、ある条件下では、どういうわけか何の抵抗もなく、私利私欲に基づいてルールを破り、しかも他人の迷惑になりうることをしてしまうのだ。夜とかアルコールとかノリとか、そういったものが原因なのだろう。

この人々の二面性というのは考え方によっては面白いのだろうが、その日は何だかそれをそんなふうにポジティブに受け止めることができなかった。私もそういうことをやらないとは言い切れないが、できることならば自分は“あちら側”には行きたくないように感じた。


先の仕事を通して知り合った人々とは、普段は何も考えずに行っている、よくよく考えると不適切な行為の是非なんかについて、真面目に話すことができるように思う。そういう議論は、案外ブランド運営における判断の役に立ったりするのだ。きっとその日にcoelacanthの店主と交わした言葉の中にも、そういった類のことが含まれていたはず。

「4:6」というのはそういう割合なのだろう。馬鹿な内容や行為は多いが、その“濃度”はきっと高くないのだ。これが世の中の人は「7:3」くらいになっているから、ギュッと凝縮されている「3」であれこれ“やらかしてしまう”のだ。あくまでも私の勝手な想像だけれども。


そんなわけで、私も引き続き「4:6」でい続けよう、と思った夜だった。きっとそれが、いいよね。


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