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遅れた電車を待ちながら

アントワープからパリに戻る電車の約1時間の遅れが発表されたのは、出発予定時刻の15分ほど前だった。早めに駅に到着し、カフェで軽く仕事をした後、それを知る前の私は時間に余裕を持ってホームへと移動することにした。

アントワープ中央駅は不思議な作りになっている。ホームが4つの階層に分かれて配置されているのだ。パリ北駅に向かう18時33分の電車は地下2階の23番ホームから発車予定であることを、1階の電光掲示板で確認してエスカレーターで下に降りた。

そしてホームに到着してはじめて、その電車が1時間遅れでちんたら走っていることを知った。

この遅延がなかなか厄介なのは、単純に到着が遅くなることももちろんなのだが、実際のところどれくらいの遅延になるのかわからない、という点だ。つまり現時点では1時間(正確には59分)の遅延と表示されているが、もしかしたらそれより早く到着する可能性は十分にある。現に今しがた確認したところ、先程まで59分だった遅延時間は58分に短縮されていた。下手に離れたところにいると、思いがけず電車が早く到着して乗りそびれる、という可能性もあるのだ。

ということで私はホームに陣取ってこのようにnoteの記事を書くことにした。1時間あればそれなりの分量が書けるはず。書き上げられなくても、アントワープからパリまでは2時間ほどかかるので、その間に加筆すればいい。


前回の記事で、今年に入ってヨーロッパの複数の都市を訪れたことを書いた。それは意識的にやっていることだ。今後のçanomaのグローバル展開において、各都市をある程度私が把握していることは、きっと重要になると考えている。あちこち行くのは時間も労力もお金もかなり持っていかれるが、未来への投資だと思っている。

あちこち行く中で、私がいかにヨーロッパについて知らなかったかを痛感している。パリに住んでいる時は、お金は香水に使いたかったので、ほとんど旅行をしてこなかった。だから私の知っているヨーロッパはパリに限られていたし、それによって私の頭の中ではどこか「ヨーロッパ=パリ」という図式が出来上がっていた。

当然のことながら、それは非常に狭い了見だ。ヨーロッパと一括りにいっても、それぞれの国や都市においてかなりの違いがある。街を少し歩いていくつかのお店を覗けばそれは一目瞭然だ。そのようにして私は今、ヨーロッパの全体像とその中に包含される各都市の個別性を把握しようとしている。


そんな中で、私は自然と、パリの特殊性に気づかされている。これまでに訪れた都市の中で、圧倒的に「マスの力学」が強く働く場所なのだ。より“ブランドらしいブランド”が勝てる場所である。

パリでフレグランスブランドを立ち上げたフランス人に話を聞くと、「自分たちはあれもこれもやっている」と、いかに多方面に気を配っているかについて誇らしく語られることが多々あった。きっとそれが、パリで勝負をするために求められていることなのだろう。しかしながら、資本力のない小さなブランドが大手の真似をして全方位的にやろうとしたところで、結局その全てが中途半端で終わり、最終的には失敗してしまうのだ。残念ながら、私は今までそういったブランドをいくつも見てきた。

これまで訪れた都市で求められているものは、それぞれにかなり異なるように感じた。ある都市ではとにかくニッチなものがうけ、またある都市では深い思索が求められている。ヨーロッパひとつとってもそうなのだから、グローバルで考えるとそれはそれは大きな違いになるだろう。


そんな違いを見ていると、ひとつのマーケットにフォーカスしたブランド作りというのがひどくナンセンスに思えてくる。あるところでの正解は、あるところでの間違いになる。

だからこそ、ブランドというのは自分の信念に基づいてのみやるべきだと思う。それをやりさえすれば、受け入れられるマーケットはこの地球上のどこかに必ずやあるのだ。ヨーロッパのブランドの中には、本国では鳴かず飛ばずだが日本ではやたら流行っているものがいくつもある。逆に日本で以上にヨーロッパで人気の日本ブランドも実は結構存在している。


ここまで書いたところで電車が来た。結局64分遅れ。遅れの原因は、線路への立ち入りとのことだった。

向かい合った2人がけの席に座った。前にいる若い女の子はひたすら数独を解いている。鉛筆でマスの中にメモを取りながらやっているが、はたしてクリアできるのだろうか。

正解のない問題に取り組んでいる私は、正解のある紙の上の数独が、少しだけ羨ましくなった。


さて、パリまではアントワープで見たあれこれを頭の中で整理しながら、のんびり過ごすことにしよう。正解のない問題を解いていれば、パリまでの2時間なんてあっという間なのだから。


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