見出し画像

オーデションと渋ぃ渋谷

今日は昼にオーディションが一丁。
僕の前に受けていた人は僕より経験豊富で若そうだ。
一体このオーディションには何人が集まるのだろう、
確率で言えば何パーセントの戦いなのだろう。
そんなことを考えずには居られない待ち時間だった。

予定された時間よりも早く終わった僕のターンは
『髪の毛はすぐにでも切れます!』と答えたのが最後だった。前の人にもその旨を聞いていたから恐らく全員に聞くのだろう、とりあえず受けた人の中で一番髪の毛をはやく切ってくる自信あるぜ!な感じで答えてきた。

それらが終わって映画を観るため訪れた渋谷。
慣れた足取りで歩く浴衣の女性を、
街頭インタビューのテレビマンが小走りで追いかける。
身長は小柄ではあるが立派な無精髭をこしらえ、煙草とキャメラがよく似合いそうな、なんとも渋い男だ。そんな男がやけに腰をかがめ、下から慎重に話しかけに行くものだから、余程その女性にインタビューを受けて欲しいのだろうということが見て取れる。
このとき、丁度この2人を結んだ直線の中間地点に位置していた僕は当然、渋い男が浴衣女性に向かう途中で追い越された訳なのだが、渋い男が抜き去る時に起こした煙草と加齢臭の混ざった生ぬるい風を浴びることまでは予測が及ばなかったのである。

それは、なんとも渋すぎる渋谷のにほひであり、
少しの間足を止めるには充分な効力を持っていた。
果たして彼のインタビューは実現したのだろうか。


この記事が参加している募集

#眠れない夜に

69,099件

#ほろ酔い文学

6,027件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?