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現実な荒波に帰って

朝早く、地元から東京に戻った。
人の歩くスピードや電車が来る間隔がそうさせるのか、時間の流れが早くなった気がして仕方ない。
でも、なんだかこの感じに落ち着いている自分も確実にいる。そうか、今やこっちに『帰ってきた』のだ。
家で荷物を解いて着替えると、すぐさまオーディションへと出かけた。

地図無しじゃ到底辿り着けないような隠れたビル。
控え室に集まった他の通過者までも心做しかみんな都会っぽく見える。
この人達からしたら僕もそう見えているのだろうか。
自分の内側が少しぎらっと熱くなる。
「負けてたまるか」
沈黙のなかで出番を待った。

オーディションが終わり、途端に時間を持て余した。
地元では基本車移動だったから全然散歩ができていなかった。
スマホの中にいるコーチには散々、『いつもより歩数が少ないですね。あなたならもっと頑張れるはずです』と発破をかけられている。それならば、と歩くことにした。
でっけえでっけえビルを見据えながら散り途中のいちょう並木を通り、目まぐるしい街を歩いた。
早い足取りではなかったけど止まることは無かった。
足が疲れて来たと感じた頃には14,000歩を超えており、そりゃあ疲れる訳だった。そしてあのでっけえビルはいつまでもでっけえビルのままだった。

休憩の為ベンチに座ると向かいにいた学生がTikTokの撮影を始めた。あのスマホの中にはたくさんの青春とファンがいるのかもしれない。もし仮に僕がいま同じくらいの学生だったとしたならば、彼女たちのように撮影していたのだろうか。足を休ませながら考える。
なぜか1ミリも想像は出来なかった。
呆れた僕はとにかく腹が減っていたので買っておいたおにぎりを頬張り、少しの間空を見ながら休んだ。


またここから甘美で残酷な、どこまでも現実の毎日が始まっていく。乗りこなせ、足を動かせ25の冬。


おわり

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