🍥ネックベーコン🍥
冷蔵庫からベーコンを絶やしてはならない。
ベーコンジャンキー(塩漬燻製肉偏執狂)の世帯主がいると、こういった家訓になる。
いかめしく家訓とうそぶいてはいるものの、実際は私の胸にそっと隠してある、ぬるっと撫で肩の家訓だ。
ただでさえ、冷蔵庫の限られたチルド室を、ベーコン行きの塩漬け肉で常に占拠し妻に煙たがられているのに、
「汝、ベーコンの火を絶やすべからず」
などとのたまおうものならば、たちまち夫婦関係も塩漬け状態になるにちがいない。
肉なら塩漬け後に燻製することでベーコンに昇華されるが、塩漬けの夫婦を煙に巻いたことろで、残るのは犬も食わない禍根だけだろう。
前置きが長引いてしまったが、豚ネック(豚トロ)のベーコンのうまさは異常だ。
どれほどの異常さかというと、娘だと思って育てていたものが実はチュパカブラで、夜な夜な近隣の家畜を襲っていたほどの異常さだ。
ベーコンといえば、
バラのベリーベーコン
肩ロースのショルダーベーコン
ロースのカナディアン
腕のピクニックベーコン
上記の部位のものが一般的な種類といえる。
それぞれに違った良さがあるが、しっかりと塩漬け熟成を経て燻煙にかけたベーコンの妙味といえば、やはり脂の旨さだろう。
脂の旨味を堪能したいのであれば、やはりベリーベーコン、そしてネックベーコンを選ぶのが吉だ。
ちなみに、イタリアでは塩漬けし脱水熟成させたバラをパンチェッタ。ネックをグアンチャーレという。
燻製をイタリア語ではアフミカータと言うので、ネックの生ベーコンは、グアンチャーレ・アフミカータだ。
日本人には馴染みのない類の圧倒的な語感で、口にすると何やら賢くなったような気がする。思わず、
「グアンチャーレ・アッフミカータを作ったんだけど、うちでカルボナーラでもボナペティっていかない?」
などと誰彼かまわずに乱用したくなるが「分別」という二文字と妻子の顔を思い出し、ここはグッと堪える。
お気に入りのスモーキーソングを口ずさみながら、早速ひと切れ炙って味をみる。
えも言われぬ脂の甘み、鼻腔をたゆたう燻香。
そして、ネック独特のしょっきりとした小気味良い歯応え。
私は思わず、
ショキショキ
と、呟いた。
いけない。
美味しさあまって、私のなかで眠っていた妖怪小豆洗いが目を覚ましたようだ。
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