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TOYOTAの決算発表を通じて研究開発型事業を創る人が学べること(後編)

TOYOTAの決算発表を通じて研究開発型事業を創る人が学べること(前編)の続きです。

企業経営で最低限守る必要のある組織や人に関する考え

我々には現場があります。現場はリアルでありますので、その現場で長年培ってきたものに関しては、どんなIT化が進んでも、どんなテレワークが進んでも、これはやはりリアルで、人間がやる仕事。


「ものづくりの現場」には「人」に「従属した」技術が存在する。章男社長は質疑応答前に300万台の国内生産を死守することが必要という考えを示していた。

僕なりに、300万台以下の生産数にしてしまうと人数構成的にITに頼れない技術伝承部分が途切れてしまう可能性が高いと判断しているのだろうと理解した。

車のような複雑なパーツを組み立てしていくような研究開発+製造事業の現場にはいくら外注先が充実したとしても、外注先での品質をコントロールできて、自分たちの意図した製品に仕上げられる最低限のチームが必要なはずだ。

小さな組織からビルドアップするスタートアップでの研究開発でも、ある程度エスタブリッシュされた企業の場合においても有効な置き換え視点は見い出せる。

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【置き換え視点】

・研究開発サービスや受託加工を提供するビジネスの場合は、オペレーションを外注で回す場合は、外注先をコントロールできる体制になっているか?

・顧客のリピートしたいサービスとして認知された後、受注増にあたりサービス品質が劣化しない為にサービスコンセプト検証前の体制と線形増加でいいのか?他に考えるべき点はないか?

・外注先コントロールに必要な能力を維持する為に必要な「人」に求めれるスペック(経験、スキル+α)は何か?

・自社製品研究開発型ビジネスの場合、どこまで外注先に依存するのか?もし、外注先が止まったとした場合に取りうる代替アクションは何か?

・今回のような物流網や人の移動が止まることによる危機をある程度認識した対策を考えざるを得なくなる。ただ、研究開発機能を内部完結できるに越したことはないが、平常時には重くなる。社内の開発リソースをどこまでを抱える or 抱えないかをどのようにポリシー設定するか?

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質問に対し極力誠実に回答した上で違うものは「違う」と主張するための技術


別の質問で外国人記者より

国内生産300万台にコミットメントを示していることに大変感心をいたしました。トヨタは国内経済の真のアンカーであると考えています。そこで、しかし、この考え方、哲学に照らし合わせまして、トヨタは他の日本以外の市場へも同じようなコミットメントができるでしょうか。する準備があるでしょうか。


というものがありました。これに対する回答は以下(端折ってます)でした。

海外は台数をコミットメントするというよりは、まずはその国にとって必要な企業になること…、必要な自動車会社になること…、そして“あてにしてもらえる自動車会社”になることを、まず先決に置き、その結果として台数が増えていく…ということが、その地域、そのステークホルダーにとって喜ばしいことであれば、ぜひともですね、そっちの方向でいきたいなというふうに思っております。


現在600万台は日本以外での生産。日本国内よりも総数では多い。米国では120万台の生産。

ある意味これは釣りの質問としての典型だと思う。日本では台数コミットできるのだから海外でも同じ様に言質を引き出せればという意図を感じる。

インタビューを受けたりする際に、こういう質問が時折飛んでくることがある。さすがそこはトレーニングを積んでいらっしゃると思われ素晴らし対応技術を見た気がした。

結論としては、「コミットメントはできない」なのだが、その理由を基本方針に照らしてポジティブに伝え、それを見ている聴衆をファンにする技術に学ぶものがある。

詳細はリンク先で「6.その国で”あてにしてもらえる自動車会社”になることが先決」を見て欲しいが対応要点は以下。

1.記者の質問を受け止める:海外生産の現状とその歴史的背景を説

2.基本ポリシーを説明:「その国で売れるものをその国で作る」

3.目指すところを説明:「よそ者」として進出をしている国の人たちに受け入れてもらうために、「台数」でなく、「この町一番の自動車会社と言われる」ことを目指していることを説明(ここは定性的)

4.目標に対する現状認識:日本では3の目標は達成できているが、海外できているかと言われるとまだ。だからまずそこを達成し、その後に自分達の車がいくら売れるかという話だ!

ある意味記者の期待を一蹴しているのだが、嫌な感じが全くしない。

それは、自分達のエゴ(販売伸ばす)ではなく、「そもそも客や社会(サプライヤー含め)に受け容れられないことには買ってもらえんよね?」と反論するのが難しいロジックを投げかけた上で、「無理に目標立ててもデメリットの方が勝るのでやりません」と言い切る。これは技術だと思う。

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【置き換え視点】

・一次情報として追いやすい数字を安直に重要指標に置いてないか?定量観測しにくいものだとしても、会社や事業として目指す到達点としてこれだ!と思えれば、それを採用すべき。

・たとえ感覚的に思える目標であっても、成長過程を捉える定量的な方法を開発することに頭を使えば、測定&共有可能な重要指標を作れる。

・株主等との対話の中で安直に目標設定していないこと、できないものを無理にしないことを理論立てて説明できるよう準備する。

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最後に

現役バイオベンチャー企業経営者をやっている時は、異分野で、しかも規模の大きく異なる企業からこんなに学べることがあると思っておりませんでした。しかし、当然ですがその道を極めんとする人からは企業経営に限らず色々と学べるところがあると感じます。

あとは大切にしたいことはユーモアだなと。日本の大企業の社長さんとしてはかなりユーモアのある方ではないかと以前から思っていました。今回の決算発表のやり取りを見ていてもそう感じる場面が多々ありました。

「毎日をご機嫌に生きる」というのが最近の僕の目的でもあるのですが、それにはユーモアは欠かせない手段です。

若田光一さんも以前インタビューで同じようなことを仰っていられたので参考に貼っておきます。


参考資料

決算説明会本編の書き起こし

質疑応答の書き起こしは以下

おまけ

章男社長の母校Babson Collegeでの卒業生向けスピーチは有名でご覧になったことのある人も多いかも知れません。僕もこの方のユニークさをこのスピーチで知りました。

興味ある方はこちらも見てみてください。

おわり。


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