記者会見で「緊急事態宣言下での五輪開催の大義名分」を説明する機会を逸した菅義偉首相

昨日、菅義偉首相は記者会見を行い、東京都に対して新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を7月12日(月)から8月22日(日)まで発令することを表明しました[1]。

6月末から東京都における新型コロナウイルス感染症の感染者数が増加の傾向を示し、緊急事態宣言を発令するための所定の基準に達する項目があることを考えれば、今回の措置は適切な措置と言うことができるでしょう。

また、菅首相が記者会見において「必ず安心の日常を取り戻すとの決意で取り組んでまいります」と述べたことは、政府の新型コロナウイルス対策本部の本部長としても当然の態度です。

一方、過去3回の緊急事態宣言を概観すれば回を追うごとに宣言の効果が低下していることが推察されます。

そのため、4回目の緊急事態宣言の発令に際して、どのように実効性のある対策を講じて感染者数の増加と医療現場の負担を軽減させるかが重要な課題であることは明らかです。

しかし、今回の記者会見で菅首相がワクチンの接種と酒類の提供を一律に停止することを挙げた以外に具体的な対応策を明示しなかった点は、感染の拡大の抑制に向けた対策が限られていること、あるいは当局が「手詰まりとなったら緊急事態宣言」という発想に基づいて行動していることを示唆します。

さらに、開催都市である東京都に緊急事態宣言が発令される中でオリンピックが開催されることになるという点について、記者会見での質疑応答において他の大規模な催事や学校行事などが中止や延期される中で「なぜ五輪だけは許されるのか。こうした率直な疑問や怒りに対して総理はどうお答えになるのでしょうか。」[1]という質問に対して回答を避けたことは、菅首相にとっては失策であったと言えるでしょう。

何故なら、観客の有無を問わず国外から選手や関係者などが来訪することに人々が懸念を抱くのは当然で、こうした疑問に対して緊急事態宣言下でもオリンピックを開催する理由を述べることは、大会の実施を正当化するためにも重要な措置であるからです。

それにもかかわらず「イベントの開催制限については、東京オリンピック・パラリンピック大会も実は同様の取扱いであります。緊急事態宣言の下では、午後9時以降は無観客での開催をお願いする、そういう9時以降はなっていますので、こうした点については御理解いただきたいというふうに思います。」[1]と答えるのみでは、菅首相は事態を正確に理解していないか、理解しているとしても事態を重視していないのか、それとも大会の実施する理由を明言することがはばかれる事項なのか、という疑念を抱かせます。

もとより、この1年の間で国際オリンピック委員会(IOC)の金権的な体質や日本オリンピック委員会(JOC)あるいは大会組織委員会の当事者意識の欠如などが明らかになっているだけに、緊急事態宣言下における大会の開催の意義を強調することはかえって世論の反発を招きかねません。

従って、菅首相の態度は戦略的であるとも思われます。

それでも、「率直な疑問や怒り」に対して回答しなかったことは、菅首相が国民との対話を避けているという印象を与えるには十分なものであり、大会に対する国民の信認の度合いを一層低下させかねないものです。

その意味で、今回の記者会見と記者団との質疑応答において、菅首相は重要な機会を逸したのです。

[1]新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見. 首相官邸, 2021年7月8日, https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0708kaiken.html (2021年7月9日).

<Executive Summary>
What Is a Meaning for Prime Minister Yoshihide Suga to Avoid a Clear Explanation of Declaration of the State of Emergency? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Yoshihide Suga held a press conference and announced Declaration of the State of Emergency on 8th July 2021. In this occasion we examine a meaning of the conference for Prime Minister Suga.

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