妥協的で現実的な「ゼレンスキー大統領の日本の国会での演説」の実現

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、オンライン形式により3月23日に日本の国会で演説する運びとなりました[1]。

ゼレンスキー大統領はこれまで米英独加各国の議会でオンライン形式による演説を行っており、ロシアによるウクライナへの侵攻を巡りウクライナを支持する立場をとる日本に対しても、支持と連帯を訴えるものと考えられます。

外国の元首などが来日した際に国会で演説した例としては、2002年2月19日のジョージ・ブッシュ米国大統領、2006年10月19日のグエン・タン・ズン・ベトナム首相、2007年4月12日の温家宝・中国国務院総理などが挙げられ[2]、その時々の日本の外交のあり方と密接にかかわりつつ演説が実現していることが分かります。

その意味で、今回、日本の同盟国である米国がすでに実施しているということからも、ゼレンスキー大統領の要望を実現させるのは日本の外交政策上好ましいと言えるでしょう。

一方、ゼレンスキー大統領がロシアを強く非難する可能性が高いことを踏まえ、立憲民主党の泉健太代表が日本とウクライナの両首脳が共同声明を出した上で、演説の内容を両国の合意の範囲内にとどめるのが日本の国益にかなうと主張する意見もあります[3]。

また、衆参両院はいずれもオンライン形式による審議の仕組みがなく、外国の元首や首脳らの演説をオンライン形式やビデオ形式で実施した実績もないため、与野党で新たな取り決めを行う必要がありますし、本会議場には大型モニターなど映像や音声を表示、出力する機器もありません[4]。

こうした状況から、議員会館を利用するという方針[5]は、設備の面から考えても、本会議場の権威を守りつつ国会の中での演説を実現するという点では消極派の妥協を引き出しやすい、現実的な対応と言えるでしょう。

それだけに、近年の国会の中でも特に国内外の注目を集めるであろうゼレンスキー大統領の演説がどのようなものになるのか、当日の内容が注目されます。

[1]ゼレンスキー氏23日に国会演説. 日本経済新聞, 2022年3月19日朝刊1面.

[2]外国の元首又は首相等の国会訪問の際の演説一覧表. 参議院, 公開日不詳, https://www.sangiin.go.jp/japanese/aramashi/houki/pdf/se-s-37.pdf (2022年3月19日閲覧).

[3]泉健太🌎立憲民主党代表|衆議院議員. "ゼレンスキー大統領による日本の国会での演説。他国指導者の国会演説は影響が大きいだけに、オンライン技術論で論ずるのは危険。

私は日本の国民と国益を守りたい。だから国会演説の前に『首脳会談・共同声明』が絶対条件だ。演説内容もあくまで両国合意の範囲にすべき。それが当然だ。". 2022年3月16日午前8時31分, https://twitter.com/office50824963/status/1503876490546790402 (2022年3月19日閲覧).

[4]ウクライナ侵攻 大統領国会演説、日本に打診. 毎日新聞, 2022年3月17日朝刊5面.

[5]ゼレンスキー氏の国会演説、23日実施へ. 日本経済新聞, 2022年3月18日, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA18C380Y2A310C2000000/ (2022年3月19日閲覧).

<Executive Summary>

What Is a Meaning of Ukrainian President Zelensky's Speech at the Japan's Diet for Japanese Politics? (Yusuke Suzumura)

It is said that Ukrainian President Volodymyr Zelensky will made a speech at the Japan's Diet on 23rd March 2022 via online. In this occasion we examine a meaning President Zelensky's plan for Japanese politics.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?