「広島原爆の日の首相あいさつ」が持つ意味は何か

昨日、1945(昭和20)年8月6日(月)に広島県広島市に原子爆弾が投下されてから満75年を迎え、安倍晋三首相が広島市原爆死没者慰霊式及び平和祈念式に参列し、核兵器のない世界と恒久平和の実現に向けて力を尽くす旨を演説しました[1]。

冒頭のあいさつの後に「新型コロナウイルス感染症が世界を覆った今年、世界中の人々がこの試練に打ち勝つため、今まさに奮闘を続けています。」[1]と新型コロナウイルス感染症に関する話題を挿入したのは、時流に配慮したものでしょう。

しかし、それ以降の内容の中で直接に関係する話題がなかったため、聞く者には新型コロナウイルス感染症は全体の趣旨に沿わないという印象を与えることになりました。

その一方で、注意すべきは、結びの直前で「高齢化が進む被爆者の方々」と、従来通り被爆者の高齢化の問題を改めて指摘したことです。

2012年12月に第二次政権を発足させた安倍首相が初めて被爆者の高齢化に言及したのは、2015年のことでした[2]。

それ以来、安倍首相は毎回のあいさつで被爆者の高齢化ないし若い世代への被爆体験の継承に言及しています。

もちろん、こうしたことは、一見すると当然のことのように思われます。何故なら、被爆者健康手帳の所持者は最多の時期の6割減の約13万6千人となり、平均年齢が83歳を超えるなど、「原爆の記憶の次世代への継承」が喫緊の課題となっているからです[3]。

それでも、当然の事柄にあえて注意を払うよう促すことは、被爆者の高齢化や記憶の風化という誰もがあらがい得ない事実をわれわれに教える役割を持ちます。

従って、毎年、定型的とも形式的とも思われるあいさつの持つ意味は決して小さくないと言えるでしょう。

[1]広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式あいさつ. 首相官邸, 2020年8月6日, https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0806hiroshima.html (2020年8月7日閲覧).
[2]広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式あいさつ. 首相官邸, 2015年8月6日, https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2015/0806hiroshima_aisatsu.html (2020年8月7日閲覧).
[3]広島の惨事 どう伝承. 日本経済新聞, 2020年8月7日朝刊37面.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of the Address by Prime Minister Shinzo Abe at the Hiroshima Peace Memorial Ceremony of 2020? (Yusuke Suzumura)

The 6th August 2020 was the 75th anniversary of the atomic bombing of Hiroshima. Prime Minister Shinzo Abe made his address and it has an important meaning for us, since he emphasises to pay our attention to a fact that atomic bomb victims are aging.

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