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体育会系とリーダーシップ

※当該内容は、天狼院書店のメディアグランプリに掲載されたものと同様です。

「結構、あいつ反抗的だよねー」
職場でのある課長の一言。ネガティブなトーンで言っている。
素直に従うことが、課長への奉仕ではないだろう。私は心の中で思った。
社会における、このような発言は珍しいものではない。

かくゆう、私も管理職。部下からの反論や反対意見に対して、イラっとした経験もある。
私は学生時代、野球部に所属し、野球に明け暮れた。いわゆる「体育会系」ってやつだ。
体育会系というと、「スポーツの部活に所属していた人」をイメージするだろう。体育会系の人は、先輩や監督から厳しい指導をもらいながら、練習に励む経験を持っているだろう。そのため、「先輩が言うことは絶対」的な感覚を持っている。

社会に入ればどうだろうか? この考え方は通じるだろうか?
意外と通じる。冒頭であったように、「先輩が言うことは絶対」的な感覚がスタンダードな人は結構いる。若い頃、上司から無理難題を出され、毎日仕事を頑張った人達は、そんな感覚を持つだろう。
しかし、「先輩が言うことは絶対」的な感覚は正しいだろうか?

新渡戸稲造が著作の「武士道」を引用してみよう。
この本は、新渡戸稲造が「日本文化」を世界に紹介したものだ。

「武士道」において、主君に対し媚びへつらい、ご機嫌をとるような者(佞臣(ねいしん))や奴隷のように指示に従うのみで、主君に気に入られようとする者(寵臣(ちょうしん))は軽蔑される人間であるとしている。
逆に、主君と意見が違う場合には、あらゆる手を尽くして意見を伝えることが忠義を尽くすこととされている。それでも説得できない場合には、主君の望むままに自分を処罰させることが「武士道」の考え方だ。

他の名作を引用してみよう。
マキアヴェリの「君主論」はどうだろうか。この作品において、君主の在り方について示されている。
「君主論」には、君主の振る舞いについて話している。助言する人が、率直に話せば話すほど歓迎されると思われるようにすること。そして、忍耐強い良い聞き手になるべきだとされている。

これらの考え方は、体育会系の「先輩が言うことは絶対」的な感覚と、180度違う。
「武士道」は、現代の部下職員に一つの考えを示している。上司には、「自分の考えをしっかり伝えよ」と。
逆に、上司には「部下は、ときにあなたと異なる意見を言うだろう。だけど、これはあなたに忠義を示しているだけだ」と教えている。
また、「君主論」では、部下が助言しやすいように振る舞い、しっかり話しを聞くことが上司の資質だと言っている。
体育会系の「先輩の言うことは絶対」的な感覚は、歴史的に正しい感覚ではない。昭和的な幻想なのだろうか。

ただし、体育会系の「先輩が言うことは絶対」的な感覚が正しいこともある。
軍事行動の場合だ。軍が適切に動くためには、指令は絶対でなければならない。死ぬリスクがある軍事行動の司令が絶対的ではなければ、軍は適切に機能しない。
体育会系の比喩として、「軍隊式」と言われるのがその理由だろう。

しかし、そんな職場は珍しい。ほとんどの職場はそうではない。
議論をしながら仕事を進めればよい。この点については、管理職などのリーダーの人たちはしっかり注意しておきたいところだ。
部下は生意気で良いし、反抗的で良い。
もしかしたら、あなたの良い助言者かもしれない。

ここで、部下から反対意見を述べられたとき、あなたの心の持ち方について考えてみたい。
多分、あなたは、①部下のくせに、私に意見するなんて生意気だ、か、②自分の意見が絶対正しいか、のどちらかの気持ちを持っているだろう。

①は、まさにこれまで議論してきた内容だ。リーダーがそのようなスタンスでは良くない。そんなスタンスの人には、部下からの助言もなければ、部下からの情報も得づらくなってしまう。「裸の王様」になりたいのか。

②は、これまでの話した内容とは異なる。リーダーは、時には反対を押し切って、決断をすることが必要な場合もある。しかし、反対意見があった場合には、反対意見を受け入れ、自分の意見を疑うことも重要だ。部下の意見を信じ、自分の意見を問いただす。そんなスタンスであれば、部下からも信頼されるリーダーになるだろう。

体育会系とリーダーについて考えてみた。
本記事は、体育会系の一面を再考するものであり、体育会系が重んじる、礼儀正しさや上下関係の厳しさのすべてを否定するものではない。実際、体育会系のノリは、多くの目上の人にウケる。
しかし、「先輩が言うことは絶対」的な感覚であれば、素晴らしい才能を持った若手を育てることはできないし、良いリーダーとして部下をマネジメントすることは難しいだろう。

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