見出し画像

経営と知財 #3-1 ミクロ知財戦略、特許の本質的な理解

特許権についての基本的な考え方を説明していきます。特許の”権利”とは何なのかと、オールエレメントルールです。


・特許の権利とは何なのか

特許は書類申請し特許庁の審査をへて、認められると登録されて権利が発生します。
書類には「請求項」や、「実施例」というものを記載します。イメージとしては実際に作ったモノそのものが実施例に記載され、その作ったモノに対してどのような権利を取りたいのかを規定したものが請求項になります。
契約書における条項のようなイメージで、請求項は難解な表現で、権利の範囲が文章で規定されています。請求項は契約書の条項と同じで、この文章をどう書くか、何を書くかで、権利の内容が全く異なるものになります。

例えば、fig.1のような「椅子」を発明したとします。(これまで世の中に椅子というものが一切存在しなかった前提で考えて下さい)
請求項には椅子を構成する要素が文章で規定されます。例えば「背もたれと、座面と、4本の脚を備えた椅子」のような感じになります。

ただし実際には、その発明した「モノ」が、どんな「価値」を提供したかったのかを最初に考えておく必要があります。例えば「人が座ることができる」ということが価値だったとすると「背もたれ」はあっても無くてもよく、必須ではありません。構成としては「座面と、4本の脚を備えた椅子」で良いことになります。このように必要最小限の構成要素を考え、請求項として文章で規定していきます。
なぜ必要最小限なのか、ですが、これはオールエレメントルールというルールに従い後で不利益を被らないために重要な観点となります。強い特許権を保有し、後からの参入者に対し強固な壁を構築るための観点です。(関連記事はこちら:https://note.com/yusuke_kitagawa/n/ne3d8a8cc6c7c)。

fig.1

・オールエレメントルール

背もたれは不要と考え、請求項で「座面と、4本の脚を備えた椅子」と文章で規定したとします。これが特許権の権利の範囲となります。
競合他社との競争においては、後発参入しようとする他社が、この権利の範囲に対して侵害しているか否かが争点になります。

オールエレメントルールというのは、請求項で規定した構成要素各々に対して、一つ一つを他社の製品と比較し、全部に〇がついたら侵害というルールです。重要なのは、「一部」ではなく「全部」という部分です。
例えばfig.2のように、他社が3本の脚の椅子を後から出してきたとします。この場合、4本の脚の部分で〇がつかないので非侵害となります。そもそも、座ることができるという価値を提供するためには、最低限、脚が3本あれば充足したということになります。
もっと言えばスツールのようなものを考えると、実は脚が何本かという概念でもない可能性があります。

fig.2

椅子のケースだとシンプルでわかりやすいのですが、実際はもう少し高度な技術を対象とした場合、何が最小限の構成要素か、技術的な知見がないとわからないことも多く、後になって気づく、といったことが多々起きます。
そもそもここまで書いてきた観点を知らずにとりあえず特許を申請しておけばいいやくらいの意識の方もいます。特に社内に知財の専門家がいないスタートアップや大学の研究室などは、このルールすら知らないことが多く特許を出したという事実だけで満足していることもあります。
また大企業で知財の専門家がいたとしても、ビジネス視点でどんな価値を提供するためかの認識や、技術的な理解度の浅さに起因し、同様の失敗をすることが多々あります。発明者→知財専門家→特許事務所の伝言ゲームで事が進み、かつ専門性が高く情報の非対称性がある分野であることから、認識のズレが知らず知らずに起きます。
後から公開しないために、特許を申請するタイミングで精査することが重要です。

・イノベーション

補足ですが、いくら考えて考えて特許権を作りこんだとしても、その時には思いつかなかったようなイノベーションが起き、権利が使えなくなることはよく起きます。
先ほどの例でいくと、椅子に対しビーズクッションのようなものが出てきた場合です。個人的には、くつろぐというもはや違う提供価値なんだろうと思いますし、世の中の進化の過程である程度仕方がないことと思います。故に継続的な開発や、それに伴う特許申請をしていく必要があります。

fig.3

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?