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「Neon White」感想:スピードラン×FPS=RTA。「俺ゲームうますぎ!!」を体験できるハイクオリティー良質インディー


何回失敗しても、いつの間にかリスタートしてしまう中毒性スピードラン


とにかく早くゴールする。それがこのゲームの目的です。
プレイヤーは、道中に配置されている「ソウルカード」を使用し、敵を倒したり移動手段として活用することで、ゴールまで進んでいきます。

ドラムンベースやブレイクコアのスピーディーで疾走感のあるBGMが気持ちよく、超速なリスタートはまるでceleste。理想的なプレイでゴールできたときの感覚はRTAのスーパープレイのようで「俺、ゲームうますぎ!」と感じられること間違いなし。ゲーム後半は高難易度を感じつつも、やめられない魅力のあるゲームでした。

クリアまで約10時間弱。ストーリーややりこみ要素も用意されています。
「Neon White」、非常に良質なインディーゲームでした。



ストーリー

舞台は天国。主人公は謎の男性。天国ということで、彼は既に死んでいる存在です。さらに、彼は目覚めてはいるものの、過去の記憶を無くしています。

何もわからないまま成り行きで天国で神の使いから案内及び指令を受けるわけですが、それは「天国で10日間、『デーモン』を倒し続ければ、「赦し」を得られる」というものでした。

とにかく、毎日毎日指令に従いデーモンを倒すことで、審判の日に救済され天国に居場所を得る(永住できる)、というものです。
これは優しい配慮…というわけではなく、その説明の直後強制的に彼は「仮面」を着けられます。以降主人公は「ネオン・ホワイト」として任務を遂行することとなるのです。そしてこの仮面、外れないうえに、神の使い達は「いつでも爆発出来る」との言葉を残します。救済というのは名ばかりの、脅しを含んだ強制労働なわけです。

そういうこと

神の使いの発する任務をこなす主人公の「ネオン・ホワイト」。さらに道中に出会う「ネオン・レッド」や「ネオン・イエロー」など、他の任務遂行者たち。彼らはなぜか、生前の自分のことを知っているようです。
一体どんな過去があり、今があるのか。天国とは、神の使いとは。全てを明らかにするため、ネオン・ホワイトは走り続けます。



天国を抜け出すために、ひたすらステージを走り抜ける

ストーリー上の目的は、天国を抜け出すこと。では、どんなゲームなのか。
ゲームの目的(ゲーム性)は、各ステージを決まったタイム以内でゴールすること。つまり、スピードランです。

もちろんただ走り抜けてゴールへ向かうだけのゲームではありません。
各ステージの道中には「デーモン」と呼ばれる敵と、「ソウルカード」が配置されています。
ステージクリアの条件のひとつとして「デーモンを全て倒す」というものがあります。
プレイヤーはソウルカードを用い、敵を倒す必要があります。

ソウルカードには、ハンドガンやショットガンなど様々な絵柄が描かれています。様々な種類があり、当然それにより攻撃方法、攻撃力も異なります。ハンドガンなら単発の攻撃、ショットガンなら射程は短いものの近距離で拡散する強力な攻撃。

これらのカードは道中あらゆる場所に落ちているというわけではなく、基本的には決められた場所に決められた枚数配置されているので、どちらかというと「ここでこのカードを拾って敵を倒してください」と指定されている印象です。自由に移動して自由に攻撃する、というゲームではありません。
適当な場所で、適当なカードを拾い、敵を倒す。そうやって全ての敵を倒して、ゴールを目指すのです。
つまり、走りながら武器を拾い敵を倒し、そして一定のタイム以下でゴールする。それが基本的なルールです。決まっているルートを、決まっている手段で、的確に、ミスやタイムロスをすることなくゴールすることが求められます。

そして、このゲームはただ地上を走るだけではありません。全てのステージが2段ジャンプや空中ダッシュなど、特殊な移動方法を用いなければゴールできないステージとなっています。

とはいえ、プレイヤーの操作するキャラクター「ネオン・ホワイト」は、そんな超人的な動きは全くできません(天国なのに…)。ではどうやってそのステージを進めていくか。それは、先ほど説明した、道中に配置されている「ソウルカード」が解決してくれるのです。



シンプルかつ奥深い「ソウルカード」

このゲームの目的は早くゴールすることですが、一方でこのゲームのオリジナリティを演出しているのは間違いなくソウルカードです。

先ほど紹介した、武器の絵が描いてあるソウルカード。
実は、攻撃のためだけのカードではありません。
各武器は攻撃の要素の他に、移動に関するスキルも兼ね備えています。
例えば、ハンドガン。この武器カードは、攻撃ボタンを押すと弾を1発発射し、敵を攻撃します。
一方で、このカードを「破り捨てる」ことで、どんな状態でも「ジャンプ」することが出来るようになります。

主人公のネオン・ホワイトは、通常、1度のみジャンプできる仕様になっています。しかし、例えば一度ジャンプした最高点で、手持ちのハンドガンのソウルカードを破り捨てるとどうなるか。ハンドガンのソウルカードの移動スキル「ジャンプ」が発動するため、さらにその場所からジャンプ。つまり、ジャンプ中にハンドガンのカードを破り捨てることで、空中ジャンプが完成されるのです。

破り捨てると…
その場でジャンプ(スクショだとわかりにくい…)

カードは弾切れにならない限りずっと持ち続けられるので、「どこで破り捨てるか」は考えないといけません。不用意に破ってしまうと、その武器はもう使えないので、デーモンを倒せなかったり先に進む移動手段がなくなったりで、そのステージを最初からやり直すこととなってしまいます。

そしてこのソウルカードは複数種類があるうえに、3枚まで持つことが出来ます。ハンドガンやスナイパーライフルやショットガンやアサルトライフルといった武器要素と、ジャンプやダッシュ、爆風などそれぞれの武器に備わっていて、破り捨てると発動するという各カード1回きりの様々な移動要素。

敵を倒すことと純粋なアクションゲームが見事に融合した、スピードランゲームが完成したのです。



RTAを完成させる「気持ちよさ」

ステージ上に配置されたデーモン、ソウルカード。ゆっくりプレイすれば敵の倒し方、そしてステージの移動方法は、問題なく進められると思います。

しかしこのゲーム、何より求められるのは「スピード」。各ステージには目標タイムが定められており、あまりにそのタイムに届かないプレイをしていると、ゲームとして先に進めない設定になっています。

つまり、ゲームを、ストーリーを進めるには、ステージを早いタイムでクリアしないといけないのです。ゆっくりプレイしてゲームクリア、は設定上出来ないこととなっています。

ただ、序盤のステージならまだしも、中盤以降のステージはほとんどが初見クリアは難しいものです。初見はほぼ間違いなくミスし、やり直します。

では2回目はどうか? 2回目も大体失敗します。ちょっとやそっとじゃうまくいかないステージがどんどん増えていきます。

例えば、「間違えた場所でソウルカードを破り捨ててしまった(そして敵を倒せなくなった、先に進めなくなった)」「敵の攻撃に対応できず死んでしまった」「移動を失敗してしまい、取り返しがつかなくなった」など。
基本的に道筋が決まっているゲームですので、決められた場所で決められた操作をしなければステージクリアは出来ません。
何度もやり直し、数分から十数分程度かけ、自分がミスしたところをひとつひとつ正解の動きに修正し、なんとかゴール出来るのです。

ゴールできるのは素晴らしい…のですが、ただクリアするだけでは、大体が目標タイムを下回る遅いタイムなのです。
一応のステージクリアではありますが、やり直してよりいいタイムを取ることが、ゲームを先に進むための一歩になります。

クリアしたステージをやり直す…。これは基本的に、面白くないものです。既に内容・仕掛けを知っており、なおかつ攻略した経験のあるステージを、タイムを縮めるためにプレイする。
では、その面白くないリプレイの中に、どのような楽しみを求めるか。それはいわば、レースゲームのタイムアタックのようなものです。

レースゲームでは、コースの位置取りやカーブの曲がり方など、タイムを縮めるためにとても細かいところを修正していきます。修正の最中は、なかなか理想通りに操作できず、何度も繰り返すものです。そして、繰り返しと苦労の末コンマ数秒を縮められたとき、達成感と面白さが生まれます。
そして同じステージを繰り返すということは、マリオ的なプレイヤーの学習もあります。特に昔の2Dマリオをプレイしたことがあればわかると思うのですが、初見のステージは何度もミスしてしまうものの、何度もプレイすればどこでどの敵が出てきてどこでジャンプすればいいか、暗記してしまえるものだと思います。その結果、ステージをクリアする時間はどんどん短くなっていくものではないでしょうか。

このゲームも、全く同じなのです。
既にクリアしたステージを再度行うのはまさに作業。作業ですが、しかし1度クリアしたときの「あそこでグダっちゃったから結構タイムロスしたな」という、修正できるポイントは既に自分の中でわかっているので、「もっとスムーズに進んだらどのくらいのタイムになるのだろう、気になっている点を修正できれば目標タイムを切ることが出来るのか」というやる気、好奇心に繋がります。

まるで格ゲーのコンボを繋げていくように、徐々に各ステージの適切な攻略を体に、指に沁み込ませて攻略していく。最初は全然スムーズでは無かったステージ攻略が、自分の指さばきでどんどん躓くことなく進めるようになる。スピードが落ちずにステージを攻略することがこんなに気持ちいいなんて…と実感したころにゴール。難しいコンボを完成させたような達成感が訪れます。

運ではなく自分で掴み取った達成感と気持ちよさ。
このゲームの最大の魅力がそこにあり、そして自然とその気持ちよさを求める指は、次のステージへの挑戦へとゲームを進めてしまうのです。



一目でどこに進めばいいかわかる、巧みなレベルデザイン

このゲームの目的は、先述のソウルカードを駆使し、敵を倒しつつゴールへと向かうこと。

しかし、ソウルカードには攻撃要素と移動要素がある、という単純ではないシステムとなっています。
何より、ハイスピードで走りながら、「敵を見て」「カードをどう使うか判断して」「移動先を見つけて進む」ということが出来るのか。少なくとも、このゲームのトレーラーを初めて見たときの印象は「ゲームスピードが早くて難しそう」でした。

ところが。実際に遊んでみると本当に驚きました。
意識しなくても、「次にどこに進めばいいか」が一目でわかるのです。このデザインの素晴らしさは見事としか言えません。
ソウルカードシステムに慣れない序盤でも躓くことなくゲームを進めることが出来ました。

高い壁のふもとには破り捨てるとジャンプとして使えるハンドガン、敵が密集している近くには破り捨てると爆弾として使えるアサルトライフル。
どうやって敵を倒し、どうやって先に進むかが一目瞭然なデザインは、感覚で理解できる、スピードランでも迷わない素晴らしいものでした。

さらに、このゲームを極める…つまり最速を目指そうとすると、今度は逆にそれらのデザインにときには従わず、独自のルートを発見する必要があります。
このルート発見もこのゲームの醍醐味。一見デザイン的に一方通行、決まったルートの一本道のマップのように見えて、実は小さい箱庭的なステージであったりするので、それこそデザイン、ゲームとしての誘導を裏切ってジャンプや空中ダッシュ、爆弾の爆風などを使うことでいわゆる隠しルート、ショートカットルートを見つけることができます。
また、実際にそのルートを通るというのはレベルの高い技術を求められるので、やりこみ的な面白さもあります。なお、ショートカットルートは各ステージをある程度のタイムでクリアすることで解放されますが、表示・非表示の変更が可能なので、ルートは自分で探したい・またはヒントに従って気持ちよく最速タイムを出したい、など様々なプレイスタイルに対応されています。
私はヒントを表示して、それに従うことで、「こんなルートがあったのか!」と驚き、既にクリアしたステージを別角度で、しかもカジュアルに楽しむことが出来ました。

もちろん後半から終盤にはソウルカードや敵のタイプ、ステージの広さなど高難易度化してくるので序盤ほどわかりやすいデザインではありませんが、それでもゲームデザインに従うスピードラン、スピードの記録更新を目指して意図的にゲームデザインを裏切るスピードラン、どちらも見事で非常に面白い作品でした。



超速でリスタートして完璧なプレイを目指す流れはまるでceleste

とにかくリスタートが早い。このゲームの特徴と言っていいと思います。
ほぼロード時間なしでリスタートが可能なので、失敗したりタイムロスに繋がるプレイをしてしまったときは、躊躇なくリスタートをしてしまい、完璧な最速タイムを目指してしまいます。高難易度ゲームでリスタートが遅かったらかなりのストレスですから、リスタートの早さは非常に快適でした。

実はこのゲームを遊んでいるとき、名作高難易度アクションゲーム「celeste」を思い出しました。celesteもリスタートが早かったのですが、それ以上にかなり似たゲーム体験だと思ったのです。
celesteもこのゲームも、「頭ではわかっているんだけど自分のプレイスキルが追いつかない」という体験だなあ、と感じたのでした。

ここでジャンプして、ここで敵を撃って、ここではまだソウルカードを破らなくて、ここで爆風を使って…。頭では、最速コースをどうやって進めばいいかわかっているんです。でも、指が追いつかない…。「死に覚え」と言ってもいいであろう繰り返しを行い、そしてステージをクリアします。

そんな、失敗だらけのゲーム。でも、その「失敗を繰り返す」行為が、ストレスには感じないのです。

「Loop Hero」をプレイしたときにも感じましたが、「どうしたらいいかわかっている」からこそ、上手くいかなかったのは「自分のせい」、つまり「自己責任」で失敗したと頭が理解できるのです。だからこそ、「失敗」してもストレスにならない。人のせい、ゲームのせいではないと思えるからこそ、次のプレイでどうしようかを感じられる。

これこそ、celesteをプレイしたときに実感したことでした。
それを、Neon Whiteでも感じ、何度も何度も失敗しながらクリアまで至りました。途中で辞めるなんて思えず最後まで遊べたのも、ゲームデザインの素晴らしさから生まれるこの「自己責任感」だと思えますし、まさに良作と言える作りであると感じました。



日常パートやストーリーも面白いがそこはまあインディーといったレベル

ストーリーとしては、自分のことを知っている他の「ネオン」たちとの関わりがメインとなります。幕間の掛け合いはギャルゲーのような見た目でもあり、また水着シーンなんかもあったりしてアドベンチャーゲームのようでもあります。セリフもカジュアルで、重い話、という印象はありませんでした。

キャラのビジュアルもなかなか尖っており、特に目を引く仮面(マスク)。ともすれば戦隊もののように見えるようなビジュアルはスタイリッシュです。とはいえ、素顔が割と簡単に見えてしまうので「無理やりつけられている感」が薄いのは確か。各キャラの色と性格は立っていないわけではないのですが、スピードランと比べると比率的にもそこまでゲームの中で魅力的かというとやや劣ります。

ストーリーも練られてはいますが、欲を言えばもっと時間をかけて掘り下げたり、ボリュームを多くして欲しかったなあと思うところ。「その重要な話、そんなあっさり話されても心動かないよ!?」と思ってしまいました。もったいない!

各キャラと親密になるサイドクエストもありますが、私としてはそこまでやりこむ気力は無く、ゲームクリア。時間があったらやりたいなあとは思いつつ、サイドクエストはなかなかの高難易度コースなので二の足を踏んでしまいます。
キャラとストーリー、悪くない、全然悪くないのですが、惜しい!という部分でした。

ただこれ、正直言うと自分の中での新たな気づきだったのかもしれないんですが、「日本語文章に英語ボイス」がめちゃくちゃ苦手かも…と思いました。先日プレイした「Wolfstride」も同じくあまりストーリーに魅力を感じなかったんですが、しかしsteamレビューではストーリーがいいと書いてあったり。
そういう自分のウイークポイントのせいかもしれないのですが、個人的にはあまり刺さらなかったなあと思います。ただもちろん、このゲームの魅力の最たるものは間違いなくスピードランなので、ストーリーに感情移入できる、またはできないというのは、そこまで大きくゲームを毀損はしなかったのでよかったです。



圧倒的なクオリティのBGM

このゲームを語る上で外せないのが、Machine Girlによって制作されたBGM。正直めちゃくちゃかっこいいです。90年代感あるドラムンベースやブレイクコアなど、派手派手なEDMとかではないある意味渋めの早いBGMが本当にスピードランに合う。サルゲッチュのサントラを思い出しましたね。
これはとにかく聞いてみてもらえれば…というかゲームをプレイしてもらえればと思います。

ちなみにこのゲーム、リスタートが早いのも素晴らしいのですがリスタートしてもBGMが途切れないのも素晴らしい。止め時が見つからず無限に遊んでしまうんですよね。
これはクラブミュージックでありゲームミュージックでありなおかつBGMであるという、それぞれの主張し過ぎない特徴が合わさった結果、延々と聞いていられるうえに気持ちいい音楽、演出となっている証拠であると感じました。



終わりに

先ほど記載した通り、ゲームトレーラーではかなり難しそうな印象でした。自分の好きなアンナプルナ・インタラクティブがパブリッシュするのはかなり興味があったのですが、しかしアクションゲームか…と二の足を踏んでいたのも確か。

ところが購入してしまえば、毎日毎日プレイしひたすら失敗を繰り返しながらステージをクリアする日々。
後半のステージでは1ステージに10分20分と格闘することも増えたものの、それでも遊び続けられたのはやはりリスタートの早さと「なぜ失敗したか」の理解しやすさ、結果として繋がる「自己責任」。さらには気持ちの良いBGMと、変に無駄なものが無いすっきりとしたゲームのビジュアル。
考えてみればかなり硬派なゲームだと思うのですが、それをこんなにもカジュアルに、手っ取り早く体験させてもらえたのは、全体的なデザインの秀逸さにあるのでしょう。

スピードランという地味で不思議なコンセプトを、様々な要素で肉付けした結果、プレイヤーのやる気をぐいぐい引き出させて夢中にした「Neon White」。フォロワーのゲームが作られるとはちょっと考えにくい作品ですし、もはや唯一無二のゲームとして、インディー界に地位を確立したのではないでしょうか。

PCまたはSwitchで遊べるので、ぜひ体験してみてください。ステージを綺麗にクリアできたときの「完璧な手順で完璧にステージをクリアできた俺、ゲームうますぎ!」という気持ちのいい自己肯定感を味わえること、間違いなしです。


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