百字小説①~⑩いっき読み ▶存在
①「屋上にて」
昼下がり、私は屋上から下の道路を見ていた。夏なのに凍り付くほどに寒く、手は震えていた。道路には私に似た人、いや私そのものであるドッペルゲンガーがいたのだ。そして私のいるビルに入っていったのを見た。
(98字)
②「唯一無二」
お笑い芸人のキャラ被りは避けたい。だから私は奇抜な衣装を身に着け、奇声を上げる芸風を考えついた。何気なくテレビをつけると派手な服装の芸人が自己紹介を叫んでいた。「人と違うことがしたかったもので……。」
(100字)
③「神社」
うっそうとした木々に囲まれた薄汚い神社を見つけた。入口にある案内板を見ると「ここでは多大なるご利益を授かることができます。神利偏差値61」と書かれていた。私は鳥居越しに厳かな本殿が見ることができた。
(98字)
④「ベンチ」
夜更けに私はベンチに座って煙草をふかしていた。しかし手が震えてまともに吸えなかった。ベンチの下にはさっき中身を見たリュックがある。中には血の付いたナイフと札束。そして男が一人こちらに近づいてくる。
(98字)
⑤「指示」
歩いていると「後ろ見ろ」との看板が。振り返ると自分の落とし物に気が付いた。それを拾うと下に「右見ろ」の落書きが。右を見ると千円紙幣が落ちていた。紙幣には「上見ろ」との付箋が。ワクワクして上を見上げた。(100字)
⑥「群衆」
群衆が人通りの少ない道をふさいでいた。それが幽霊だということは半透明な体から一目瞭然であった。恐る恐る近づいてみると会話が聞こえた。「あの世が人口過多らしい.。」「だからこの世に送り返されたのか。」
(99字)
⑦「人探し」
男はキョロキョロと周りを見ながら歩いていた。はやる気持ちを抑えながら人を探しているのだ。田舎道を歩いているのだから見つからないのも無理はない。二人組の赤と青の男女のマークはそうあるものではない。
(97字)
⑧「狩り」
鳥の群れを狙って猟銃を撃つと一羽が真っ逆さまに落ち、他の鳥たちは散った。そうして落下点に行ったのだが、撃ち殺したはずの鳥がこちらを向いて立っていた。その鳥が鳴くと隠れていた仲間が一斉に襲いかかった。
(99字)
⑨「花」
その花は美味しそうに見えた。肉厚で綺麗な花弁、青々とした葉が私を掻き立てる。根元からその花を取り、口へと運ぶ。口いっぱいにしびれる旨さ。帰ったら他の人にでも知らせよう。名前はトリカブトにでもしようか。
(100字)
⑩「泥棒」
ある家に侵入した泥棒は内装を見渡すと、やけに目立つ金色の花細工が机の上に置かれているのに気が付いた。思わず掴むとそれは手にくっついて離れなくなった。片手を封じ込められた泥棒は泣く泣くその場を去った。
(99字)
▶存在
体がピクリとも動かないのが金縛りとは知っていたが、目蓋まで動かないとは。私は嫌でも覗き込む老人が視界に入った。老人はうす笑って「最近は目元まで金縛りしないと存在を知ってもらえないからねぇ」と。
(96字)
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