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はい、チーズ!@奈良 (ひとり旅エッセイ)

ひとり旅エッセイ。
京都・奈良編の最終話です。
最終日は法隆寺まで足を延ばしました。

前回は居酒屋さんでのお話でした↓


駅から法隆寺まではおよそ2キロ。
バスを待っているより早そうなので、歩いて行くことにした。

ひとり旅3日目の朝。
昨日京都を歩き回った23,000歩は一晩寝たらチャラになっていた。こういうところ、まだまだ20代なんだなと、こっそりと嬉しくなっていたり。

そして、やっぱり僕は法隆寺が大好きだ。
駅から歩いて向かってみると、改めてそう思った。

法隆寺までの道のりには所々歴史ある雰囲気が感じ取れるのだが、観光地的な賑やかさは全くなく、そこにはただ奈良県生駒郡斑鳩町の日常生活の空気が流れていた。

駅から20分ほど歩いて到着した法隆寺は「世界遺産でっせ!」といった厚かましさはなく、ただそこに存在していた。

謙虚な姿勢のようなもの。
それを世界最古の木造建築、1,400年の歴史がある法隆寺から感じた。

「兄ちゃんごめんな、写真撮ってくれへん?」

五重塔を見上げていると、ガタイの良いお兄さんから英語で声をかけられた。

「あ、もちろんですよ」

快く承諾すると、本格的な一眼レフのごついカメラを手渡された。

ちなみにここではこのような会話文にしているが、実際はちゃんと英語のやりとりである。僕は拙い英会話を頑張った。

「……なんだか、難しそうなカメラですね」
「そない難しないで。ただここ押すだけや」
「そっか。わかった、やってみます」

彼と五重塔を画角に収めるために、僕は本格的で高そうなカメラを持って数メートル離れた。

絶対にそれをする気はないけれど、今ならダッシュでこのカメラを奪い去れるよなと思ってしまった。そして、この人相当このジャパニーズを信用してくれているんだなと少しだけ嬉しくなった。

「おっけー、じゃあ……」

シャッターを切ろうとするとき、僕は一瞬止まった。この人にとっての「はい、チーズ!」的なベストコールは一体何なのだ……?

彼も英語で話しかけてくれているのだが、おそらくお国はアジア系のように思える。ここで僕が英語圏の「セイ、チーズ!」をいきなり叫んでしまったら、変な空気になるかもしれない。

いろいろと考えた挙句、まあこんな数メートルも離れていたら言っても言わなくても関係ないだろうと開き直り、僕は適当に声を出した。

「ワン、ツー、スリー、イエスっ!」

本格的なカメラの扱いに慣れていないので、シャッターの手応えが全くなかった。意味がわからなかった。

「マジ助かった。マジ嬉しい。マジありがとな」
「いえいえ、とんでもないです」

その後、僕はゆっくりと法隆寺の隅々まで見学したり、仏像に想いを馳せたりした。

お堂を出ると、さっきの外国人お兄さんが別の人に写真を撮ってもらっているのが見えた。

僕が撮ってあげた所と全く同じ場所で。

あ、さっきの絶対撮れてなかったんだな。
……ヤバっ!

赤面した僕はダッシュで法隆寺から逃げ出した。

法隆寺から逃げ、京都に戻ってきた僕は宇治駅に降り立った。ここが、この旅ラストの目的地だ。

そういえば、初日から何かを忘れてる気がする。
頭の中でぐるぐるとその何かを思い出そうとしている。

宇治駅から平等院までの参道には宇治茶や和雑貨などのお土産店がたくさん並んでいた。その素敵な雰囲気によって、記憶が蘇ってきた。

あ、そういえば、ずっと「わらび餅」が食べたかったんだった……

初日に行った比叡山のお休み処で「わらび餅」の看板を見て以来、この旅のどこかで最高のわらび餅に出会いたいとずっと思っていたのだった。完全に忘れていたのだけれども。

ここ、宇治の地で、わらび餅を決して逃すまい。

参道を歩いてすぐの甘味処で出会った。
必ずや過去最高のわらび餅になるであろうそれと。

「いらっしゃいませ~!」
「あの、わらび餅をください!」
「はぁい」
「あ、それとこの『ひやしあめ』とは何ですか?」

セットドリンクとしてメニューに載っていた、聞き馴染みのない『ひやしあめ』が気になった。

「簡単に言えば、生姜の甘いジュースです」
「え、美味しそうですね」
「生姜の味がダメじゃなければ、オススメですよ」
「じゃあ『ひやしあめ』もいただきたいです!」

僕らは出会うべくして出会った。
わらび餅を一口頬張った瞬間にそう思った。

僕らは運命的な出会いをした。
ひやしあめを一口飲んだ瞬間にそう思った。

太陽の下、平等院鳳凰堂は眩しかった。
これは存在の煌めきという意味と、シンプルな日差しのキツさゆえの「眩しい」。

金色の鳳凰に、真っ黒いカラスが止まっていた。

うまく言葉にできないが、何だか凄まじいメッセージ性があった。カラスが止まっていることに誰も気づいていない、もしくは特に気に留めていないことが、よりそのメッセージ性を強めていた。

あとは京都駅に戻って新幹線に乗るだけ。
荷物が増えるのを避けるために、ここまであまりお土産を買っていなかったので、僕はこの宇治の参道で爆買いを開始した。

梅干し買って帰ろ。

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