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食レポ|正嗣 宮島本店

 宇都宮駅から伸びる大通りを歩いた。見上げる空。漂う空気。そこには雨の気配が含まれている。カンセキスタジアムとちぎへと僕は向かう。その始発となる東武宇都宮駅が目指す場所だ。

 道すがら、「正嗣 宮島本店」がそこにある。僕の腹は餃子で満たされたばかりだ。たっぷりと存在する時間と名店への興味が僕の背中を脇道へと押す。裏道を抜け、視界が開けた通りに出た。顔を上げると、そこには黄色い看板があった。その黄色には年月が織り成す暖かみを感じる。 

 それを眼の前にし、体内には止めることのできない衝動が生まれる。カウンターの小窓から、二人前の「焼餃子」を注文した。

 十分。その時間の流れはいつもより遅く感じる。目当ての餃子は羽が生えたように僕の手元に届いた。透明のプラスチック袋から餃子が顔をのぞかせ、湯気が立ち昇る。待ち切れない。無名の裏道で餃子を口に運ぶ。熱が伝わり、肉気と刺激が広がる。三十分前に「餃天堂」で満たされた食欲は、その記憶を忘れてしまったかのようだ。

 広場にベンチを見つけた。一心不乱。その数分は身体中に広がる、うまみと生姜の爽やかな辛味と香りが波を打った。

 重厚であり、軽やか。餃子を運ぶ手は止まらなかった。日常に戻れば、「正嗣」は存在しない。食べたばかりではあるが、別れを惜しむ自分がいた。


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