見出し画像

書評|Aではない君と

 人を殺めた子と、その親の物語。光に満ちた世界が一瞬にして闇へと変わる。その闇の中でもがき続ける日々は生々しく、痛みを伴うが、眼を離すことができない。

 何度も登場する「向き合う」という言葉。主人公の吉永圭一はその意味を自問自答する。表面的にではなく、海底へと潜るように。息子である青葉翼の内面へと意識を向け、考え続ける。口を閉ざした我が子の真意を探る旅は重厚なミステリーとして読者を魅了する。

 向き合った果てに正解は存在しなかった。人間に方程式を当てはめることはできない。薬丸岳は法の限界をも描きたかったのだろうか。人間の奥深さを描き、生の力強さも再認識させられる。

 罪を犯してはいけない理由。人を殺めてはいけない理由。究極の問いに対する一つの答えとして、罪がもたらす悲しみの大きさがあり、その連鎖があるのではないか。そして、罪を犯した者とその周囲が受ける呪縛もまた、背負い続けなくてはいけない悲しみだと実感する。
 
「物事のよし悪しとは別に、子供がどうしてそんなことをしたのかを考えるのが親だ」
 
 この言葉に承知されるように、子を持つ親として、『Aではない君と』は子に対して真摯に向き合うことの意味を考えさせてくれる作品だ。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?