マガジンのカバー画像

書評

97
運営しているクリエイター

#池井戸潤

書評 #39|オレたちバブル入行組

 読者の眼は、半沢直樹へと乗り移る。「理不尽をいかにして超えるか」。それが本著とシリーズの醍醐味だ。ねっとりとした雨のように降り注ぐ、理不尽な仕打ちの数々。その熱が上がれば上がるほど、ページを繰るスピードは早まっていく。その先にある、カタルシスを求めて。  人のため、世のため。献身的な中にも、半沢直樹は自らの信念をそこに宿す。だからこそ、彼は輝き、他者から信任されるのだろう。

書評 #37|半沢直樹 アルルカンと道化師

 シリーズの新たな幕を開く『半沢直樹 アルルカンと道化師』。変わらぬ魅力により、始まりから終わりまで、一瞬で駆け抜けたような感覚を覚える。  言わずもがな、世はお金を中心に回っている。しかし、根幹にあるのは、そのお金を使う人の心だ。本作も他のシリーズ作品と同様、心を問う。そして、お金よりも大切な何か。抽象的だが、心を大切にしないと、お金も手にできない。その事実を再認識させられる。  主人公である半沢直樹の敵として登場する多くの人々。保身という言葉に象徴される、利己的で一面

書評 #18|半沢直樹 4 銀翼のイカロス

 ギリシア神話に登場する「イカロス」。蝋で固めた翼で空を翔ける、技術と勇気の人。一方で太陽へと接近し過ぎ、蝋の翼が溶けて墜落死した人でもある。素晴らしい技術も、そこに宿る人間の精神によって運命は変わる。  『半沢直樹 4 銀翼のイカロス』では経営不振の泥沼にはまり込んだ巨大航空会社を舞台に、多様な人間たちの欲が交差する。鬱蒼とした森の中を「正しさ」で切り開いていく半沢直樹。「正しいことほど、強いものはない」。その言葉を再認識させられる。  作中では「手段の目的化」が眼につ

書評 #13|下町ロケット ヤタガラス

 仕事の意義。誰のために。何のために。『下町ロケット ヤタガラス』は読者にそれを語り続ける。この後の文中では作品の核心や結末が示唆されているため、気になる読者は読むのを避けてもらいたい。  作品の軸として据えられた大企業と中小企業の対立。巧みなプロモーションにより、流れは終始中小企業側に傾く。しかし、その背景には過去に対する復讐がある。言い換えれば、復讐は自分のため。世のため、人のためを標榜する佃製作所の理念とは真逆だ。芯の脆弱な仕事は崩壊に至り、終盤の大逆転劇へと帰結する

書評 #11|下町ロケット ゴースト

 人間の本質。池井戸潤の作品に通底するテーマだ。 ものづくりには人の精神が宿る。『下町ロケット ゴースト』でも登場人物たちが縦横無尽に自問自答し、それぞれにとっての答えを見出そうとする。正解はない。答えを求める過程に人柄が映る。その濃淡が本作の醍醐味だ。この後の文中では作品の核心や結末が示唆されているため、気になる読者は読むのを避けてもらいたい。  濃淡の中にも不文律は存在する。それは仕事の対象だ。顧客は何を求めているか。そこに思考を巡らせる。その源は「お前らしさ」や「オリ

書評 #8|下町ロケット ガウディ計画

「物事を上手くやるために必要なこと。第一に愛、第二に技術」  サグラダ・ファミリアやグエル公園を生んだアントニ・ガウディは前述の言葉を残した。『下町ロケット ガウディ計画』に彼の名が冠されているが、この言葉はものづくりに通底する真髄とも言える。本作におけるガウディの紹介は限られているが、読後にその印象を強く持った。この後の文中では作品の核心や結末が示唆されているため、気になる読者は読むのを避けてもらいたい。  池井戸潤の作品に見られる起承転結は健在だ。主人公である佃航平が

書評 #1|ロスジェネの逆襲

 久しぶりにドラマ『半沢直樹』を眼にし、働く人々の共感を誘うストーリー展開に心を刺激された。「感情表現の強調」を歌舞伎の醍醐味の一つと捉えるならば、市川猿之助や尾上松也が登場する企業を舞台にした経済ドラマも歌舞伎にも似た、良質なエンターテインメントへと昇華される。第一話の余韻が残り、僕は六年前に読んだ原作『ロスジェネの逆襲』を再び手にした。この後の文中では『半沢直樹』『ロスジェネの逆襲』両作品の核心や結末が示唆されているため、気になる読者は読むのを避けてもらいたい。  この