書評 #26|TUGUMI(つぐみ)
『キッチン』を読んだ僕は『TUGUMI(つぐみ)』に手を伸ばした。子どもから大人への扉を開く、未熟と成熟が交わる一瞬を切り取っている。そこには読者を過去へと誘う懐かしい香りがあり、未来へと向かう期待と不安がある。
『TUGUMI(つぐみ)』は鋭い感性の物語でもある。そこには多くの人物が登場するものの、主人公のつぐみとまりあにだけスポットライトが当たっているような感覚を覚える。吉本ばななが編む美しく、私的であり、詩的な文体は彼女たちのみずみずしさや力強さを鮮やかに描き出す