Drive on the memories

車のエンジンを回すとボンッという音とともに排気管から有毒そうな煙を車は吹き出す。悲しいことに運転席に座る僕はその煙を見ることはできないので灰色の煙を想像する。

少し緊張した面持ち
麗らかな春の訪れ
春の風に運ばれてやってくるのは
使命感と〆切
しかしその前に、車の運転ができなければそもそも仕事にならないので、一年ぶりに車を動かす。

僕はゆっくりとアクセルを踏むが、ニュートラルのままだったので、タイヤは空回りしたような音を出す。排気音も一層強くなり、僕は独りでに笑い出す。ひとしきり笑った後、僕はサイドレバーをドライブに入れ、ゆっくりと車は走り出す。一瞬だけ外を見ると、まるで景色が動いているみたいだ。アインシュタインのことはよく知らないのに、これが相対性理論かぁとつぶやく。車は呼応するように高らかにエンジン音を鳴らす。

僕の車はまるで流れ星のように走り去っていった
春は過ぎ、夏がやってくる
雨が流していったのは
誰の記憶だ、僕の記憶か?
何もわからない、何もわからないからこそ僕は走る。光の速さを超えたい、そう願い自ら走ることをやめる。近くに止めてあったマセラッティに乗り込む、何故か車に鍵がしていなかった。しかし当然のようにエンジンをかけることができない。僕はそこから動けなくなってしまった。気付くともうドアが開かない。

どうすればいいのだろう。
きっとどうしょうもないのだろう。
諦められないことと
諦めなければならないことの違いを
誰も教えてくれない
だからこそ、だからこそというわけじゃないけれど
僕はマセラッティの柔らかいシートの上で眠る
夢を見る、もしかしたらこれが夢で現実に帰るのかもしれない。どっちだっていいさと嘯いて眠る。

遠くで車の排気音がする。その中にきっと僕の車もあるのだろう。僕は少しだけ記憶を取り戻したような気がしたが、僕の意識はもう表層にはなかった。


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