「社会人」経験のない教員

私は、大学3年生のときに本格的に就職活動をしていました。
しかし、最終面接の直前になって、面接を辞退して教員を目指すことにしました。

以前も書きましたが、私は教員養成系の大学の出身ではなく、総合大学の教育学部の出身です。同期で教員になる人は、卒業生の1割にもなりません。
いわゆる「授業論」のゼミもありましたが、私は教育行政学のゼミに属し、教育に関わる法制度や組織に関することを学んでいました。(今となってはもう覚えていませんが…笑)

「教員を目指す人」に対する授業は少なく、広く「教育学」に関する授業が多くありました。
とは言え、「教育」を語る上で「学校」や「教員」は外すことのできない領域です。どうしても、これらの話題が増えます。

様々な講義を聞いた中で、私は「教員」は否定的に捉えられている印象を受けました。
一番の理由は、「社会人経験が無いこと」。
「教員は視野がせまい。」
「教員はお金に関する感覚が民間とは違う。」
「教員に営業に行くと、偉そうにされる。」
こんなことを、たくさん話されたように思います。

私は当時も今も、それはしょうがないことなんじゃないかと思っています。
だって、日本の教員の制度がそのようになっているのだから。
そのような経験がなくても、大学の授業を受けるだけで、教員免許が取れてしまうのだから。
社会人経験がなくても、教員になれるようになっているのだから。
それを教員に押し付けるのは、ズレていると思います。
本当にそこを否定するのであれば、そのような(社会人経験をしてから教員になる)制度にする研究をすべきではないのか、と教授に対して思っていました。

しかし、教員になってから、この指摘の正しさを感じることもあります。
教員の視野は狭い。お金に関する感覚がズレてる。偉そう。
そう感じてしまう人が多いように感じます。

以前の学校で、40代後半の女性の先生が新しく赴任してくることがわかり、
「その先生は、某航空会社のCAだったけど、辞めて教員になったらしい。」
という情報が、事前に回ってきました。
どんな人が来るのかとドキドキしていました。高飛車な人が来るのかなとか思っていました。
実際は、全く違いました。
言葉遣いが丁寧で、とても謙虚。でも、言わなきゃいけないことはしっかり言う。学校であった救命講習に、全力で取り組んでいたこと。違う視点で物事を考える早さ。ユーモアもある。ツッコミも面白い。(笑)

当時、私の学年には、「THE学校の先生」というような、生徒思いで優しく熱い先生がいました。
とてもいい先生でしたが、「子どものためには」ということで、けっこう無理を言うこともありました。
学年での会議の際、何の話題か、またそのような場面があったとき、新任のその女性の先生が、
「与えられた条件の中でどうやるかを考えることも大切だと思います。」と言いました。

学校は、「子どものためだから」というマジックワードのもと、条件を緩和したり選択肢を増やしたり規模を拡大したり…ということがよくあります。
これも、教員の仕事が増えていく、勤務時間が長くなっていく要因です。
しかし、その先生は、「限定された中での最大化」という、矛盾するようで鋭い考えをポンっと会議に投げてくれました。

やはり「学校」でしか過ごしてきていない私たち教員は、見方や考え方が凝り固まっている感は否めません。自分の経験や過去の情報に頼りすぎてしまいます。
「効率がよい」とか「早く終わる」ことを目指すことがよくないと考える古い考えの人もまだいます。

この先生のおかげで、私はまた自分の世界が広がった気がしました。
民間企業で働いてみたいという気持ちが再燃した、教員3年目でした。

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