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姪ができた

昨年の春、弟夫婦に子どもが産まれた。

祖母は「ひいばあちゃん」になり、母は「おばあちゃん」になり、わたしは「おばちゃん」になった。

母のスマートフォンには、弟から定期的に子どもの動画や写真が送られてくるようになった。

それを横から「どれどれ」と見せてもらうのだけど、彼女はいつも泣いていた。

あっちこっちで泣いていた。

それを見ながら、「あぁまた泣いてるわ」「泣いてんなぁ」と母と言い合うのが恒例になってしまった。

 ☆

最近送られてきたのは、写真館での一コマだった。

撮影のため、彼女はママから離され、みつばちのような帽子と服を着せられ、手にはステッキのようなものを握らされていた。

最初はなにが起こったのかわからず、ぽわんとした顔でキョロキョロしていた彼女だったけれど、だんだん眉間にしわをよせ、口をへの字に曲げ、これでもか、というぐらい顔のパーツを真ん中に寄せていく。

そして顔をひくひくさせ、「あぁーもう泣くで、泣くで」と思ったらやっぱりすぐ、「わあああーん!!」と小さな体のどこにそんなパワーがあったのか、顔を真っ赤にして、涙をぼろぼろ、すごい勢いで泣きだした。

すぐにスタッフさんとママが彼女のもとに飛んできて、「ごめんねごめんね」となだめ、あやし、ママが抱っこすると一瞬で鎮静。

そのあと、今度はピンクのふわふわしたお姫様のようなドレスを着せられていた。

着せられて、という表現が本当にピッタリで、またきょとんとした顔で、何もわからない様子。

そんな姫のご機嫌を損ねないように、スタッフさんがガラガラと音の鳴るおもちゃで、彼女の気をひいている。

しかし、自分がママから離れていたことに気づいてしまった彼女は、また顔をしわくちゃにし、口をへの字に曲げて、顔を真っ赤にして「わあああーん!」と全力で泣き声をあげた。

せっかくの可愛い格好とのギャップがすごい。


勝手にアテレコするなら、こんな感じだろうか。


誰やねん、あたしにこんなん着せたんはあぁぁぁ
早脱がせろやぁぁぁぁ
ママのところ行かせろやぁぁぁぁ



こうしてアテレコしてみると、赤ちゃんってものすごくロックンロールなのかもしれない。

その小さなロックンロールを、わたしは「あぁ、また泣いちゃったなあ」と思いながら、冷静に眺めていた。

(写真館のひと、いつ写真撮ったんだろう、さすがプロ)


 ☆

もっと「赤ちゃんかわいい」とか「感動」とか、そういう感情が自分のなかで湧き起こるものだと思っていた。

けれど思ったほどでてこなくて、いつもそうやって姪の動画を他人事のように見てしまっている自分に、ちょっと戸惑っていた。


普段20歳以下の人間と接することがないからだろうか。正直子どもや赤ちゃんのことがよくわからなくて、「ふむふむ、子どもや赤ちゃんとはこういうものなのか」と思う気持ちが先にくる。

こんなものなのか?
これでいいのか?

自分のあまりの関心のなさに、少し引いていた。


 ☆

お正月、姪と初めて会うことになった。

お年玉あげないといけないなぁと思いながら、ポチ袋を初めて買い、中にお札を入れた。

けれど、このお札は親がどうにかするんだろうなぁと思い、0歳児に何か喜んでらえるものをあげたほうがいいかな、と絵本を贈ることにした。

初めて本屋さんの幼児コーナー行き、驚いた。

絵本から音楽が鳴るのは当たり前で、何か飛び出すのは当たり前。

「おおおお、今の絵本ってこうなんだ、進化してるんだなあ」と思いながら、10曲ぐらいメドレーの鳴る、にぎやかそうな本を選び、百均で包装紙を買って包んだ。

知らなかったことが、彼女のおかげでまたひとつ、知ることができた。



お正月、姪はママに抱かれて登場した。

この日はピンクのうさぎのフードがついた服と、花柄のスカートを着せられていた。
鼻と口が弟にそっくりだ。
つるんとしたお肌がうらやましい。

「ここどこ?」というような顔であたりをキョロキョロ見回し、知らない人ばかりで、ふえん、と一瞬泣きそうな顔をしたが、ママに抱かれていたからか、泣かなかった。

「おりこうさんやねえ」と親戚に言われながら、「だからここどこよ?」という様子でママにしがみついて、  服をひっぱっている。

わたしはママのお膝に座っているごきげんさんのうちに、「どうぞ」と言って、ポチ袋と絵本を渡した。

彼女は、「なんだこれは」という顔で、ポチ袋を小さな手のひらのなかでぎゅっと握りつぶし、ニヤリとした。それを、「ありがとうございます」とママがよだれでぐちゃぐちゃにならないうちに、そっととりあげた。

絵本は「とりあえず食べてみるか」とはしっこをはむはむ、味見しだした。よくわからないけれど、舐めた味は悪くないらしい。

その様子がなんか面白かったので、
「本、美味しい?」と聞いてみた。

そしたら、まんまるで、まっくろなおめめでわたしをまっすぐ見て、にへらぁ、と笑った。

下の歯が、2本だけ生えていた。


…かわいい。
赤ちゃん、かわいい。
姪っ子、かわいい。

はじめて芽生えた感情だった。


そのあとも、よだれをだらだら垂らしながら、持ってきたアンパンマンのおもちゃを舐めたり、あげた絵本の音をちょっと鳴らしてみたり、(一応気に入ってくれたみたい)、色々な人の顔を見るのに忙しそうだったけど、そのひとつひとつの行動が、見ていて全然飽きなかった。

思わずこちらの頬までゆるゆるになった。

わたしはこの子の伯母なんだなぁと思った。


 ☆

「わからないことはたからもの」

誰かが以前そう言っていて、なんとなくメモをしていた言葉が、スマホに残っていた。

生まれたばかりの彼女は、見るもの聞くものはじめてのことばかりで、この世界はきっとわからないことだらけなのだ。

だから、さわって、舐めて、泣いて、笑う。

同時にわたしにとってもはじめてのことが多くて、きっとこれから彼女に教えてもらうことが多くなるんだろうなあ、と思う。


わからないものは正直怖い。

けれど反面、宝探しのように、また新しいことをおぼえていけるのだと思うと、なんかたのしみだなあと思う。

宝探しは何歳になってもできるのだ。


伯母だからといって、大したことはできないし、本当に経験不足だけど、伯母だからできることを探していこうかと思う。


…これから、どうぞよろしくお願いします。


それまでおとなしく、おりこうさんだった彼女は、帰る直前に曽祖母に抱かれたとたん、ものすごい勢いで泣き出した。抱っこの仕方が気に入らなかったらしい。

最後の最後で、あぁ惜しかった。

その様子を見ながら、「ああ、また泣いてるなあ、かわいいなあ」とほのぼの思った。

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