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春を待つ、ひとりで

花粉で鼻がムズムズする。

立春を過ぎてから、まだ雪もパラパラ降るし寒いのに、どこからともなくふわっとしたなまあたたかい空気がふいて、なんとなく春を感じるようになった。

それは、お盆が明けたらふうっと誰かが息を吹いたような風が吹き、なんとなく秋を感じるのと似ている。

お盆過ぎれば、秋。
立春過ぎれば、春。

そんなどこかの誰かが決めた決まりではない、神さまが決めて、この世にかけた魔法が好きだ。

かといって、まだまだコートもマフラーも手放せないし、エアコンもつけないと寒い。

となりの部屋からは、エアコンが動いている音が聞こえていて、あぁうちも同じように聞こえてるんだろうなあと思う。


服屋さんのショーウィンドウは、薄手のパステルカラーのお洋服がぼちぼちならんでいるけれど、それはまだ寒々しい。

季節はもうじき追いつくとは思うけれど、その時はすっかりきっぱり春で、忙しさにかまけてショーウィンドウの前なんて通り過ごしてしまうだろう。


三寒四温、不安定な寒さとあたたかさを行ったりきたりしながら、安定したあたたかさを待っている。

3月の今の時期は、そんな時期だ。

本格的に春になるのを待つ時間。

そんなうつりかわりの時間は、目的地に向かって電車でごとごと揺られている時間みたいで、少しわくわくする。





今年の冬は、くるりの『ソングライン』というアルバムをよく聞いた。

アルバムの曲って、1周か2周したら、なんとなくそのなかでもお気に入りの曲が1曲か2曲できて、いつの間にかそればかりを聴くようになるけれど、『ソングライン』は全然そんなことがない。

全部を平等に聴いたし、全部がお気に入り。

すごいアルバムだと思う。

時代を飛び越えろ 荒らされた土を踏みしめて
/その線は水平線
然も 誰かが 呟いていたような結末を 季節は跨ぐ 試みの地平線 弧を描いて/風は野を超え
風が吹いているから 進め前止まれ見よ/How Can I Do?
季節は巡り また時を知り ここで迎えた朝陽は登る/landslide
ほら、流れる雲を追えば 次の街が見えてくるよ/忘れないように
それっぽっちの優しさで 人はずれていく ずれていく/どれくらいの
変わらなきゃ 何でだろうな そんなことを思うのは/News
ただ春を待った ただ君を想った また春を待った ひとりで ひとりで/春を待つ
所詮君はひとりぼっちじゃないでしょう 生きて死ねばそれで終わりじゃないでしょう/ソングライン
思い切り泣いたり笑ったり それは明日も明後日も 変わらないあなたへのメッセージ/特別な日
ただ 覚えていることは だいじなことなんだ/だいじなこと

 ☆

春は新しいことを始めることに、向いている季節だという。

変わらなきゃいけない、という焦りの気持ちだけで変わりたくない。けれど変わらなきゃ、といつも思う。

春になると、この矛盾をいつも弄ぶ。

変わりたい、変わりたくない、変わりたい、変わりたくない

そうやって、花びらをひと片ひと片、落としていく。

どうしたらいいのかわからないまま、2022年春も終わるのだろうか。
 …それはちょっと。

ではこの春、何を残したいのだろう。

何を残したいのだろう、と改めて自問自答すると、答えに詰まる。

何かを残さないと、それは全部、無駄になるの?

全部、意味のないものになるの?


無駄で意味がないものは、ダメなもの?


違うだろう、と言いたい。
違うだろう、と信じたい。


 ☆

まもなく〜 春、春に到着致します
お忘れ物、落とし物のございませんようにお願いします…


到着すれば春になってしまうので、まだ少し、このアナウンスは待ってほしい。

今はまだもう少しだけ、『ソングライン』を聴いていたい。

焦らずじっくり、存分にその時間を楽しめば、自然と体は前に出て、走り出せる。

動きたくて動きたくて、たまらなくなってくるだろう。そういう風になっているはずだ。

その感覚をもう少し、待ってみようと思う。

ありがとうございます。文章書きつづけます。