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崖の下には危険がいっぱい:奈良県中~東部山間地域【災害から身をまもるvol.20】

奈良県中~東部山間地域にある見事な崖は「屏風岩」と名付けられた景勝地でした。国の天然記念物に指定されているようです。
私もいずれ行ってみたいと思っていますが、皆さん、お気を付けください。
もちろん景色は最高ですが、一方で危険も潜んでいます。

崖の下は危険です

もちろん100%危険とは言いませんが、落石の危険はありますよね。
地震が起こった後や、大雨が降っている時とその後数日は近づかない方が良いでしょう。

それと「崖がある」ということは、その手前にあったハズの地面がなくなったということなんですよね。
長い年月の間に浸食したということで、地すべりやがけ崩れなどが何度も起きている可能性があるんです。

ですのでレジャーで行くのはまだしも、住むのは控える方が良いでしょう。(※今の法律では急傾斜地の下の一定区域に家は建てられません)


どんな危険が?

具体的にどんな危険があるか?地形図を見てみましょう。

画像1

スーパー地形(カシミール3D)より抜粋。
なおカシミール3Dは元データとして国土地理院の「電子国土」を使っているそうです(出典:国土地理院ウェブサイト
※トップ画像や以下の地形・地図画像すべて引用もとは同じです。

前回紹介した崖の南西部地域です。
崖の直下にテラス状のノペッとした地形があり、その下は随分と小刻みで複雑な地形ですよね。

地形図図示

地形のみだと目立ちますよね。特に赤点線で囲った範囲は凹凸がスゴい。

画像3

崖の直下がノペッとしてるけど、そのヘリはえぐれていますね。

地形図図示02

赤点線を引いた部分が、昔に崩れた跡だと考えられます。
大小様々な規模で、あちこちで何度も崩れたのでしょう。

例えば一番東はモコモコしていますよね?
これは少なくとも4回崩れて、その跡が重なったので、このようなカタチになっています。
また西から2番目は、大きい馬蹄形の下に小さい馬蹄形が2つあります。
最初に上が崩れ、その後に小さい崩れが2回あったことを示しています。

ゴチャゴチャするので描きませんでしたが、他にも崩れた跡が多数あります。頻繁に崩壊が起こる場所だと考えられるので、近辺に住むのは得策ではないと思います。

ナゼそんなに崩壊が?

では何故、そんなにも崩れるのか?
ノッペリしたテラス地形も合わせて考えると、その原因は地すべりだろうと考えられます。「え?また??」って言わないでくださいね(;^_^A
ただここの場合、だいぶ古い晩年期の地すべりで、地すべりそのものは動かないのではないかと思います。
過去に何度も動くうちに亀裂が入って風化が進み、全体的に弱い地質になったのが崩壊の原因でしょう。

地すべりの上部斜面平坦地だったり緩やかな斜面になったりするので、その名残がテラス地形と考えられます。

では地すべりの範囲は?

地すべり地形01

大きく見ると、こんな感じです。東西にもよく見れば地すべりが沢山ありそうです。

地すべり地形分布図

地すべり地形判読図:J-SHIS Mapより

地すべり地形判読図では1つの地すべりとして判定しているんですね。
それにしても、西も東も地すべりだらけ・・。


地質は?

こんなに地すべりが多いなら、もちろん地質が原因でしょう。

画像7

薄茶色が崖を構成している溶結凝灰岩。その南の黄土色は礫岩です。
この地質図だとテラス地形も溶結凝灰岩ですが、違うかも?です。

地質図

5万分の1地質図幅「名張」:地質調査所より

と言うのも、コレです。
細長く薄茶色になっているのがテラス地形です。ところどころに「C」という地質が描かれてますよね。
これは岩屑(がんせつ)、つまり落石などによる岩塊が溜まっているということです。
ただし落石ではなく、地すべりでできた岩屑でしょう。

断面図

スーパー地形図アプリで作成した断面図に筆者一部加筆

茶色は昔の地形(私の想像です)、黒色が地層境界(地形図・地質図からの私の想定)です。
そして礫岩内に挟まっている泥岩(西岡ほか1998)がすべり面になって地すべりが動いたと想定されます。
そうすると上に載っていた溶結凝灰岩がバラバラになって、地すべり頭部(テラス地形)に残ります。これが「岩屑」になったと考えられます。

このように上に硬くて重い地質(ここでは溶結凝灰岩)があり、下に滑りやすい地質(ここでは泥岩?)がある場合、地すべりが起こりやすいんです。
これをキャップロック型地すべりと言うのですが、詳しくは別の機会に。
キャップロック型地すべりの場合、地すべり頭部に「岩屑」があることが多いのです。場所によっては風穴(ふうけつ)になっていたりもします。

以上のように、崖の下は落石だけでなく、地すべりの場合もあるので注意が必要なのです。
お読みいただき、ありがとうございました。


参考文献

西岡芳晴・尾崎正紀・山元孝広・川辺孝幸(1998) 名張地域の地質.地域地質研究報告(5 万分の 1 地質図幅),地質調査所,72p.

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