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取り残された河川たちは高く儚い:埼玉県中西部平坦~中山間地域【流域を考える旅vol.12】

秩父盆地内では昔の河川の名残とも言える河岸段丘が広い平坦な地形をつくっています。
今回はその河岸段丘をもう少し突っ込んで見ていきましょう。

場所の確認

埼玉県中西部平坦~中山間地域(秩父盆地)の場所を再確認します。

地形区分

スーパー地形(カシミール3D)より抜粋した画像をもとに筆者作成。
なおカシミール3Dは元データとして国土地理院の「電子国土」を使っているそうです(出典:国土地理院ウェブサイト
※トップ画像や以下の地形・地図画像すべて引用もとは同じです。

埼玉県西部、上図の⑩地域です。

市町村名前

秩父市、小鹿野町、横瀬町、皆野町の一部地域です。


古い段丘ほど高い!

そもそもナゼ段丘ができるのか?

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前回も見た秩父市街地の平坦な土地。
ここが階段状になって「段丘」になっていました。
段丘がつくられる第一段階は「平坦な土地」がつくられるところから始まります。

詳しくは省きますが、あるとき、地形や周囲の環境などの影響で、土砂が溜まって平坦な土地ができます。
そしてまた色々な変化で河川の浸食力(削る力)が強くなり、川の流れが溝を掘るようになります。

そう。「だんだん低くなっていく」のです。
だから高い場所の段丘ほど古いということになります。

こんな感じ。

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出典:産業総合研究所

上の図で「高位の段丘」と書いてある場所が一番古い段丘です。


秩父盆地内の一番古い段丘とは?

では秩父盆地内で一番古い段丘はどれでしょう?
前回の記事を読んでいただいた人の中には「そんなの簡単だよ~」と思う人もいると思います。

例えば・・

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ここでスパッと切った断面を見て・・

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この段の一番上が一番古い!って思いますよね。
(断面図は縦の縮尺10倍です)

でも、実は違うんです(;^_^A

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まず、これまで見てきた段丘のイメージを一度、取っ払いましょう。
そして単に「平坦な土地」を探してみてください。

ほら、あちこちに見えてきませんか?
その中でも一番標高が高そうな場所を探してみてください。

どうでしょう?


ズバリ、ここです!!

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図の真ん中あたりを北東ー南西方向にのびる尾根、わりと平坦ですよね。

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図の右の方に薄い緑色があり、これが最初に見た段丘です。
それよりも少し濃い目の緑色が秩父盆地で一番高い位置にある段丘堆積物。

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盆地全体を見てみると、少し濃い目の緑色があちこちに見えます。
この地質図では段丘は2つに分けられていますが、正確には高位・中位Ⅰ・中位Ⅱ・低位Ⅰ・低位Ⅱの5つだそうです。

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この段丘が「高位」で一番古い段丘です。
時代は第四紀更新世チバニアン期(約50万年前)の地層です。

日本各地や世界中を見ても、そのあたりの時代の段丘が一番古いのだそう。
つまり、もっと古い段丘は浸食されてなくなってしまうということです。
50万年以上の時の流れで消えてしまう。儚いですね。

ちなみに標高は約400mで、近くの荒川とは200mもの差があります。
ここまで差があると、ちょっとイメージしにくいですよね。
そんなに高いところを川が流れていたの?と感じます。


これならイメージできるかも?

別の場所も見てみましょう。

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右の川(横瀬川)と左の川(荒川)のあいだに台地がありますよね。これも段丘で中位Ⅰです。2番目に古い。
でも川っぽくないし、イメージしにくい・・

と、また別の場所を見ると・・

切られた谷

うお!なんだこれ?
赤丸の場所、明らかに切れてますよね。
これは間違いなく、谷が荒川(右)に削られたのでしょう。
そして2つの赤丸のあいだに見える平らな場所が段丘(中位Ⅰ)です。
切られた谷地形には今の河川堆積物がたまっています。それがまさに浸食される途中です。
こういうのを見ると、少しはイメージできたのではないでしょうか?
切られた谷は割と広いので、過去はもっと上流まで川がのびていたハズ。
それが荒川の浸食により、こんなことになってしまっています。

河川は土砂を運んで平らな土地をつくりますが、やがて削られて面影がなくなってしまう。
人間が想像しがたい長い年月をかけ、大地は刻一刻と変化するのですね。


今回は以上です。
お読みいただき、ありがとうございました。


参考文献

牧本 博・竹内圭史(1992) 寄居地域の地質.地域地質研究報告( 5 万分の 1 地質図幅),地質調査所,136p.

羽鳥謙三(1975)関東ローム層と関東平野.アーバンクボタ 11,p12-17.

菊地隆男(1984)多摩丘陵-上総層群とその堆積環境-.アーバンクボタ 23,p40-43.

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