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A君から聞いた話

以下は、アメリカにいたころに某国出身の留学生A君から聞いた話である。

1.A君から聞いた話

これからあれやこれやと書くつもりだが、いちばん重要な点はすでに書きおえている。念のためくりかえしておくと、この話は

A君から聞いた話

なのであり、この点だけは強調してもしすぎることはない。くれぐれも間違えないようにしていただきたい。この点にくらべれば残りの話は大したことではない。

A君がどこの国の出身だったかは忘れたけど、どの国の人だったにしろ、これはぼくの体験談ではないし、日本人の話でもない。「某国出身のA君から聞いた話」であるということだけは、くれぐれも忘れないように。

以下、臨場感を高めるために、「~そうだ」などの伝聞表現を省略して一人称の体験談のように書いているけど、あくまで某国出身のA君からきいた話にすぎない。

2.A君から聞いたにすぎない話

さて、A君とはアメリカで知り合ったのだが、当時、かれは留学してすでに数年が経過していた。その間、某国にはいちども帰国していない。そしてある日、同じ大学のアート系の友だちのうちに招かれて遊びに行ったのである。

A君の友だちの名前をかりにザックとしておこう。ザックの家は数人でルームシェアしており、共同で「あるビジネス」をやっていた。

A君が家に入るとザックが「いいものを見せてやる」といって床板にはめられたドアを開いて床下を見せてくれた。床下は白熱灯で煌々と照らされており、一面にびっしりとほうれん草のようなものが植わっていた。

しかしそれはほうれん草ではなくて、タイマーたら言うものだったのだそうだ。タイマーというのはウルトラマンの胸でピコピコ言っているカラータイマーの「タイマー」ではなくて、大きいほうのタイ・マーである。

そう、ザックとその仲間たちは「マーの栽培農家」だったのだ。

3.くれぐれもA君から聞いた話

そのマーは細心のケアによって育てられた極上品で、葉っぱの表面にクリスタルみたいなきらきら光る粒がいっぱいついていた。

ちなみにA君の母国にも日本の組織によく似た非合法組織があり、カスみたいなマーを巻きエサとして配っていたらしいが、そんなカスみたいなマーとは、月とスッポンくらいにくらい違っていたそうである。

某国のカスみたいなマーは、アルミの上で火をつけて必死こいて吸って吸って吸って

はい息を止めて!

レントゲンみたいに数十秒間必死で息を止めているうちにかろうじて効いてくるか効いてこないかという程度の代物だ。

あとで考えてみると、効いたような気がしたのはたんに息を止めすぎた酸欠状態にすぎなかったのではないか?とすらおもえる。

しかし、本場のマーは滝川的なものが葉の表面にびっしりついている極上品で、一息吸うとあっというまにカラータイマーが点灯してしまうという恐るべきシロモノだった。

4.完全にA君から聞いた話

こう言ってはなんだが、ぼくから見てもA君の言動にはちょっとスキがあるというのか、マーな連中に声をかけられやすいところがあった。

まあ、そんなわけでザックと二人でビートルズを聞いたり、日本国の電気グルーヴというバンドの音楽を聴いたりしながら、マーでまったりしたのだ。

デンキってどういう意味?

などとザックに聞かれてもA君にはわからない。

日本語ワカリマセン。たぶん「イレクトリシティ」のことじゃないかな?

などと答えつつ、さんざんマーしまくった挙句にA君は帰宅した。

5.徹頭徹尾A君から聞いた話

さて、大事なのはこの帰り道だ。カラータイマーを点灯しまくった勢いのまま自転車に乗ってふらふらと学生寮に向かっていると、まるで

母国で自転車に乗っている

感じがしたのだという。

いわくいいがたいのだが、まるで母国の通りを横切っているような感じで、リラックスして通りを渡れたんだそうだ。

こんなにリラックスするのは数年ぶりだ・・

と感じた。

逆に言うとそれまでの数年間は、いちども母国で自転車に乗っていたようにはリラックスしていなかったわけで、母国でももちろんクルマには気を付けて乗っているけど、リラックスというのはそういう意味ではない。

アメリカでは、クルマ以外の何かにも緊張しながら日々生活していたことに初めて気づいた。

ウイスキーなんか1晩に軽く1本は空けていたのだが、それくらい酔っぱらっても母国にいるような感じは一度も味わっておらず、極上のマーの作用で数年ぶりにそこまでのリラックスに達したという。

A君は、それ以前も以後も仕事で西海岸や東海岸にたびたび滞在しているが、母国での生活との温度差をあのときほどの感じたことはない。

いま振り返ってみれば、留学当時は、ダラスで国内便に乗り換えて、周りが白人だけになった時にいきなり警戒スイッチが入っていたような気がする。

・・でも、母国にいるときだけ感じられるあの謎のリラックス感がいいかというとそうでもない。むしろアメリカにいると、あの包まれるようなリラックス感が消失し、その分言いたいことをガンガン言えてスッキリするという。

6.当然、A君から聞いた話

さて、某国はともかく日本でも最近、メディカルなマーについての法律が見直されつつある。でもA君いわく、医療はともかく娯楽としてのマーはそんなにイイもんじゃないと感じたそうである。

お酒のほうがよっぽど楽しい。日本酒なら刺し身におでん、ビールには唐揚げ、ワインにはチーズなどなど、いろんな豊かさがある。

ビールをクーっとあけて、

プハー、やっぱり黒ラベルで決まりだな!

などとクダを巻きながら揚げ餃子をぱくついたりもできる。

でも、マーには黒ラベルもドライも揚げ餃子もシングルモルトもボジョレーもなにもないわけで、ただ座り込んで葉っぱを吸いながら、音楽に体を揺らせるだけである。なんとも貧相な感じなのだそうだ。

アレが好きと言うひともいるのだろうけど、A君は、ニッポンの黒ラベルのほうがはるかにましだといっていたので、それきりマーはためしていないそうだ。なので、あのリラックス感の正体もわからないままだ。

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