自慢できる人生とは ―『精神』(2008)―
最近、ネットを見ていて、若い人の言動にある種の傾向を感じることがある。それは
にかなりこだわっているように感じられることだ。逆に言えば、
みたいな感覚の人が多いということでもある。ばくぜんとした印象にすぎないけど、そういう風潮があるように感じる。ただし
など、考え始めるとよくわからないし、まちがっているかもしれないけど、まあ、そんな風に思えるというだけのことです。
イケてる人生
そのうえで、これまた推測にすぎないんだけど、こういう空気が醸成されたのはネットが発達したことと無関係ではないと思える。
自分がいかにイケてる生活を送っているかを競い合うようにアップする人も多いし、自分の人生を商品にして稼ぐ人も大勢いるし、小学生ですら
というアピールで稼いでいる時代だ。もちろん、生き方を商品にするのは個人の勝手である。
しかし、生き方を誇る人が増えたからと言って、だれもかれもが人に誇れる生き方をしなければならないわけではない。また、立派な生き方やかしこい生き方をしている人だけに生きる価値があるわけでもない。「つまらない人生を送っているから恥ずかしい」ということもないはずだ。
そんな中で『精神』(2009)を見た
そんなことを感じている折に、アマゾンプライムで『精神』(2009)というドキュメンタリー映画を見て、とてもよかったので紹介します。これを見ていると、
と強烈に思わされる。プライムビデオの紹介文を貼っておくとこんな感じ。
「ドキュメンタリー」と書いたけど、想田和弘監督は「観察映画」と名付けているのだそうで、ナレーションも一切入らず、撮影クルーもどうやら監督一人でやっているらしい。
いまネットを検索したところと想田監督の「観察映画の十戒」というサイトがヒットしたのでちょっと長いけど紹介しておこう。
とまあ、こういうたいへんな掟を貫いて撮られた作品らしいのだが、そうやって、患者さん一人ひとりの話を聞いていくのである。
いろんな人がいる
中に「赤ん坊を虐待で殺してしまった」という女性が出てくるが、もちろん役者さんが演じているのではなくて、殺した本人が、そのときの様子を淡々と語るのである。
想田監督は彼女にそういう話を語るよう依頼したわけではなく、カメラを回しているうちに、おのずからそういう話になっていったのだろう。淡々としたリアル感がすごくて、見ているほうがつらく、ぼくは途中で2回一時停止し、「007ダイ・アナザー・デイ」を見て気分を和ませた。
ただし、悲惨な話ばかりではない。下の予告編を見てもらえばわかるけど、陽気な人も出てくるし、電話で揉めている人もいるし、ホントにいろいろだ。
生きるというのは大したこと
いずれにせよ、この映画を見ていると、生きるというのはそれだけでたいしたことだと感じないではいられない。「他人に自慢できるかどうか」などほんとにどうでもいい。映画を見るだけでそういう風に感じられるというのは、とてもいい作品なのではないだろうか。
ぼくはタルコフスキー作品も「2889 原子怪人の復讐」も人に見ろと勧めたことはないし、これからも勧める気はないけど、この映画はPrimeに加入している人なら1回は見て損はない。
なお、作品の完成後に監督と山本医師が対談した記事があるんだけど、撮影された医師本人が、映画の感想を聞かれて
と語っている。被写体を感激させるドキュメンタリーってそんなにないと思うのである。
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