🎸少女の自虐とおっさんの自嘲――「ぼっち・ざ・ろっく！」／承認欲求／カタルシス

こんにちは。筆者のユルグです。

今回も恒例、「奥行きのあるラジオ～2022年秋アニメ終わったよ編～」に投稿した『ぼっち・ざ・ろっく！』の投稿文の全文です。
最後におまけとして【2022年秋アニメランキングベスト45】もあります。

🎸ぼっちへの近親憎悪？

Twitter民、5ch民両方ともに2022年第1位に選出した２冠作品であり、秋クール1番面白かったというより1番こころがざわついたのが『ぼっち・ざ・ろっく！』。
古のオタクとしては、やはり同じきらら作品のバンド物アニメとして、『けいおん！』からの時代の移り変わりをとにかく感じて、「そっか～最近の若者は大変だなー」と勝手にひとりごちる次第。と、いうのは表向き半分で実際はダイレクトにダメージを負う作品だったりする。
なぜか？
「ぼっちのコミュ障ぐあいが他人事じゃない」とか「ぼっちがなんだかんだで成長していくのが見ててつらい」とか言う意見も散見されはするが、それ以上に、彼女の自己肯定感の低さの裏返しとしての自意識過剰さと承認欲求からの挙動に感じる近親憎悪に近い感情に心穏やかに見れなかった、というのが正直なところとだからだ。
それでもそういう鬱々とした心持ち半分で本作を評価したときに、だからこそ見いだせるものがあるとすればそれはなにか。以下に短く記する。

🎸ロックという武器で挑む相手たち

「自意識をロックという武器で武装して社会に対すること」――。
本作をそういう構えで受け取った。ここにあるのはもはや『けいおん！』にあった学校という暖かな繭に囲い込まれた平穏と、卒業という決定的な終わりを包含した奇跡のような日常ではなく、終わりのない吹きさらしの社会での日々のサヴァイヴだ。
自虐をこじらせた自意識空回り系主人公が、部活物ではなくもはや社会に直に接続している若手バンド物の世界で右往左往する。　
本作は押入れ、学校とその外という３つの場所で展開されるが、空回りし続ける自意識と自足できない不幸な心性からくる承認欲求の肥大が、学校はもとより、自己肯定感が過度に低いにもかかわらずギターを弾きこなし３万人もフォロワーがいる押し入れから、物語を外へと、社会の中へと押し出していくことになる。　
承認欲求といういつまでも満たされない不安。不安だから満たされず満たされないから不安であるというこの悪循環が、終わらない社会でのサヴァイヴと重なって物語は進行していく。社会にはない卒業という終わりのあった『けいおん！』で躍動した脱自意識系の平沢唯には無縁の承認欲求と不安を、実に本作は現実と等しく内包している。最終回の「今日もバイトかぁ」は終わりのない世界の象徴として響く。

『ぼっち・ざ・ろっく！』の音楽は社会で戦ってサヴァイヴするためのものだとすれば、どれほど『けいおん！』から遠くかけ離れたものであるかは明らかだ。なにせ「学校中退が夢」なのだ。そのためには３年間６時間のギター練習という『けいおん！』ではありえなかあった鍛錬が必要になり、ライブでのアクシデントを乗り越えるためにもそのサバイブする確たる力が役に立つことになる。ここでは端から下手くそではいけない、どうにもならないという現実、シビアな現実の引き写しの現状認識が歴然としてある。そして互いに生き残っていくために、ぼっちにとっては少しでもノーマライゼーションしてくれる役割として仲間たちが存在する。

🎸勝手な祈り（誰への？）

本作をどう観ざるを得なかったか。
むき出しの社会とむき身に接する八方塞がりな絶望的とも言える世界観で、そうであるがゆえにありえる生のかたちを描き出している、とまず端的には言える。そして他人と接するのが極度に不得意なパーソナリティの持ち主が、バイトをして、オーディションを受けて、チケットを売って、ライブで客から軽んじられるという目も当てられない過酷な社会のミッションに挑むさまを、まさにたじろぎながら観た、ということになる（俺なら押し入れに逃げ帰って引きこもりたくなるよ、えらい！）。一番とは言わずとも何番目にかは生きて行くのに向いていなさそうな性格のぼっちに、現実の社会の生きにくさの反映を目にしながら。祈りのような勝手な思いを抱いて。
それは承認欲求が止むところ、ただ純粋にいま仲間たちと観客たちと音楽を楽しむこと、そして自分以外の誰かのために音楽を奏でるその瞬間を垣間見せてくれる日が来ること。
はっきり言ってはそれは『けいおん！』への回帰でしかない。しかしだからこそ一度、その先の可能性にいたるためにも必要かもしれない。
ぼっちの承認欲求を追求する世界には現実社会のように終わりがない。だからこそ承認欲求の悪循環に変化がない。変わらぬ日常に耐えてサヴァイヴするためには一度、例えば『けいおん！』のように部活と学校という世界が終わり、世界が変わり、その終わった世界から何かを持ち帰るという経験が必要ではないか。でなければいつまでも過酷な社会の中で消耗し疲弊してしまうことになる。そう心配してしまう。
「ぼっち、きみはこの先どう生きて行くんだい？」とそのまま突き返されそうないらぬ思いがよぎってしまう。

🎸彼女との別れがもたらすであい

自己肯定感の裏返しとしての自意識過剰とそれに不釣り合いな承認欲求は消そうにも消せない厄介な代物だ。どうなるものでもない。もちろん負の面だけではない。それらはここにあるものではなくその先にあるものの追求を促してくれる。
しかしそれはやっぱりどこにもないことに、薄々は気づくことになり、結局いま、ここでの充実で自足することの教訓に落ち着いていく。しかしやっぱりその充実が見つからない。そしてまた繰り返す。
つまるところ、やまらぬ承認欲求が『けいおん！』的な解決を遠く追い越しているという現実、それを非現実的な夢物語だと拒否すること、それらが本作の提示するものである様に見えるのは、いや、それが見えないのは、見ようとしないのは、本作を観賞している者自身の個人的な自意識の問題以上ではない、というオチなのだった。
こうして他者に転嫁していた不安の根源が徐々にあぶり出されてきてある時自己同一化が解ける。
ぼっちに、独りよがりな言葉を投げかけているそのとき、それは迂回された自問自答だった。ここに彼女自身の返答に素直に耳を澄ませるという選択肢も見つかる。
実際には何から何まで似ても似つかないぼっちへの近親憎悪的感情から始まった視聴体験は反転し、自他の分離という別れで閉じられる。ぼっちとの無意識的な重ね合わせを一度通過することでもう一度自己と出会い直す。
ぼっちたちとはここで完全なお別れとなり、ただ見送る対象になる。
残ったのは何も解決も解消もされていない現実の社会と自意識だけれども、そこにはどこかすっきりとしたおかしなカタルシスがわずかにある。
さてアルバム聞こ。

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2022年秋アニメランキングベスト45

1.ぼっち・ざ・ろっく！
2.4人はそれぞれウソをつく
3.ヤマノススメ Next Summit
4.Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ
5.チェンソーマン
6.機動戦士ガンダム 水星の魔女
7.モブサイコ100 Ⅲ
8.BLEACH 千年血戦篇
9恋愛フロップス
10.不徳のギルド
11.アキバ冥途戦争
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14.メガトン級ムサシ シーズン2
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17.うる星やつら
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19.ブルーロック
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通年、2期もの（※カッコ内の数字は相当するランキング）
（8）SPY×FAMILY
（23）デリシャスパーティ♡プリキュア
（38）惑星のさみだれ