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リリーとたくさんの階

この子はリリー。ちょっと、というかかなりの心配性。
今日は学校でどうやら嫌なことがあったみたい。
大きなため息をつきながらホットチョコをティースプーンでぐるぐるかき混ぜています。

「今日も何か嫌なことがあったの?」ママは聞きます。
「そう。今日も消しゴムを忘れちゃって、そんで大縄跳びで引っかかっちゃって、そんでもって帰ってくる時にリックのとこの犬に追いかけれられたの。そんでそんで・・」
話を続けようとしましたが、諦めたようにまた大きくため息をついて、
「なんであたしばっかりこんな嫌なことがあるの・・」とリリーはママに聞くでもなく、独り言のようにつぶやきました。

その日の夜、リリーはベットの中で今日あった嫌なことを思い出して、ギュッと布団にくるまり、そして「明日はいいことがありますのように」と心の中で呟きながら眠りにつきました。

「もう朝・・?」明るい光で目を覚ますと、そこに大きなピンクの光るボールのようなものが浮いていました。
「ぎゃぁ!」リリーは思わず後退りしました。

「しっ!」
声がして、ピンクの光の中からニュッとピンクの腕がでてきました。その指は、人差し指をあげて、ちょうど先生が静かにさせる時にする指の形をしていました。
リリーはもう声もだせないほどびっくりしていました。
すると、そのピンクの光の縁に手がかかり、顔や胴体がでてきました。ぎょろっとした目に口は大きく、身体はピンク色でゼリーのようにぷるんぷるんして、頭にはピンクの羽が何本かついています。
その姿をみた瞬間、リリーは気を失いベットに倒れました。

次に目を覚ますと、ピンク色のボールの中にいました。まるでガチャガチャででてくるあの透明なプラスチックのカプセルの中に自分が入っているようでした。

「やっと目が覚めたか」ちょっと高いダミ声が聞こえました。声の方向をむくと、あの時みた化け物が椅子に座って足を組んでこちらを見ていました。
「だ、誰なの!?というか、あなたはなんなの!?」リリーはこれが夢なのかなんなのかわからなくなってきました。
「お前がエラーを出すからだよ。」ピンクの化け物は不機嫌そうに答えました。
「エ、エラー?」
「はぁ・・分からないのも無理はない。」とそのピンクの化け物はゆっくり話し始めました。

こことは違う遠い世界から来たこと。そこは、地球の人々の気持ちを、大きな望遠鏡で「観測」していること。そして自分たちはその「気持ち」通りに人を「階」と言われるところに移動させなければならないこと。
気持ちにブレが生じると、バグとなってエラーが起きてしまうこと。

「今おめーはどこの階にも行けてないエラー状態だ。不安なら不安。希望なら希望。不安になりながら希望を考えるなんてするからだ!どこでもいいが、俺はお前をどこかの階にいかせなきゃなんない。そのせいで俺は出動させられるんだよ。まったく・・さぁ、どの階にいくんだ?」とめんどくさそうに頬杖をついて、その化け物は言いました。
リリーは「階ってなんなのよ?何の話かさっぱりよ!」とムッとした顔で言いました。
「それに・・・毎日毎日嫌なことばっかり起こるんだもん。いいことがあるように願ったっていいじゃない・・・!」リリーは今度は泣き出しそうな顔で、消え入るような声で言いました。「願う?これだからエラーが起きるわけだ。」と呆れるようにピンクのお化けはため息をついた瞬間、リリーは眩しい光に包まれました。

目を開けたら、家の中でリリーが学校に行く準備をしているのが見えました。
「あ!あたしがいる!」
リリーはガチャガチャのカプセルの中からその光景を見ていました。
どうやら、今朝の様子をみているようでした。
学校の用意をしているリリーは「今日何か忘れ物をしてしまうんじゃないかな」と眉毛を八の字にして、不安げな顔をしています。すると、リリーの身体の周りは灰色の煙に囲われだしました。

「なにあれ!?」

「お前たちの世界では見えないものがここからは見えるんだよ。まぁ、ちょっと見ときな。」
カプセルは灰色のリリーからどんどん離れてリリーが小さくなるまで遠くに離れていくと、巨大なマンションをちょうど真っ二つにしたようなものが見えました。灰色になったリリーはその階の一つにいます。
よく見ると、どの階にも家の中にいるリリーがいて、同じように見えますが、ちょっとずつ色合いが変わっているようでした。

驚いているリリーに、ピンクの化け物は言いました。
「これはな、お前たちの世界なんだ。今見えているそれぞれのの階は同じ時間に起きている“こと”なんだ。こんな風に同じ時に何百、何千もの世界が存在してるんだよ。階は細かく分かれているんだが、まぁ、愛、希望、勇気、不安、恐怖とか・・そんな世界に分かれていているんだよ」
リリーが上の階を見上げると明るく輝いているのが見えました。下を見るとグレー、その先には暗闇が見えて、リリーはブルっと身震いをしました。

「お前が今朝いたのはあそこのグレーゾーン。不安の世界だ。あそこは不安が現実になる世界なんだよ。」
「え!?不安が現実になる世界?なぜ私はそんな世界に私はいるの?」とリリーは眉毛を歯の字にさせながら言いました。

ピンクの化け物は「ふん」と、返事とも呆れた声ともどちらともいえない声をだすと、カプセルは上へ上へと浮上しました。
そこは頂上に近い明るく輝く世界でした。その階のリリーはとても満足して、自信と幸せに溢れている顔をしていました。
「なんだか幸せそうね。なにもかもがうまくいってそう・・私と全然違う。うらやましいな。」リリーがそういうと、
「これもお前なんだよ。この世界に行くことを選択したもう1人のリリーがあの世界にいるやつなんだ。お前だってあの世界に行けるんだ。簡単に。しかもあっという間にな。」

信じられない、という顔でピンクのお化けの顔を見たリリーに続けて言いました。
「この世界は自分の気持ち次第でどの階にも移動できるんだ。俺たちは移動をちょっと手伝うだけさ。上の階では、いいことしか起こらない。下の階では嫌なことしか起こらない。そうできてんだ。」
リリーは信じられないといった顔で、もう一度大きな「階の世界」に目をやりました。
「今日寝る前に、明日はいい日になりますようにって思いながら寝ただろう?それは、神様や星やなんやらに願うことじゃないんだ。自分がどう考えるかでいい日、いや、いい「階」に行くことができるんだ。」

「でも、嫌なことがたくさんあるんだもの。どうやっていい気分になればいいの?」
ピンクのお化けはリリーを横目でちらっとみて言いました。
「嫌なことなんて、この世の中にはないんだ。それを自分がどう考えるかだけなんだよ。」
「例えば、消しゴムを今日忘れただろう?その後お前は隣の無口で苦手なジャニースに貸してもらえた。ジャニースの優しさを感じることができたってことだ。忘れなければそれに気づくことができなかったよな。そう考えると忘れたことも良いことじゃないか。」
リリーは、少し考えながら小さく頷きました。
「何かあっても、起こったことの「いいこと」を考えるってことね?」
「そう、その通りだ。ちょっと練習がいるが誰でもできるようになる。もちろんお前もな。」とピンクのお化けはニヤリと笑って言いました。
ピンクのお化けは思いをめぐらせているリリーの横顔にちらりを目をやり、
「この世界は、お前が望むように作ることができるんだ。最高だろ?」と言うと、ピンクの光が強くなりリリーは思わず目を瞑りました。

次に目を開けると、そこはいつものベットの上でした。リリーは上体を起こし、変な夢を見たなと考えていました。
すると「リリー!学校に遅れるわよー!」と下からママの声がしました。
「はーい!」と大きく返事をしてベットから抜け出しました。お尻に小さなピンクの羽毛をつけながら・・・。
さぁ、リリーの新しい1日の始まりです。

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