【自律的キャリア形成】から組織のエンゲージメント向上を考える
こんにちは。
健康経営エキスパートアドバイザーのYURIKOです。
今回は組織・人事に関する日本の権威の一人である高橋俊介氏の「キャリア論」の【自律的キャリア形成】という概念から組織のエンゲージメント向上について考えてみたいと思います。
(出所)高橋俊介「キャリア論」東洋経済新報社、2003
1. 個人のキャリアをめぐる環境変化
高橋氏は「日本型雇用モデル(いわゆる企業によるキャリア支配とその見返りとしての雇用責任というモデル)」が大きく変化しようとしている背景に、以下の環境変化を挙げています。
(1) 変化が激しく将来予測性が非常に低い経営環境の中、硬直的な人事制度を維持することが困難になっていること
(2) 成果主義のプレッシャーがますます強まる一方で報酬としてのポストは減少しており、昇進昇格、給与などの客観的物差し(外的基準)だけでは、全ての社員を満足させることは困難になってきていること
(3) ビジネスモデルが複雑化し、社員一人ひとりの課題設定能力が企業のパフォーマンスの源泉となるビジネスモデルが非常に多くなっていること
このような環境変化の中で組織としての継続的成果と個人のキャリア充実を両立させるためには、個人や社会の視点だけでなく、経営的な視点から個人の「自律的キャリア形成」という新しい概念が求められるとしています。
2. 自律的キャリア形成とは
では、自律的キャリア形成とはどのような概念なのでしょうか。
キャリア評価という切り口でみると、キャリアには昇進昇格、給与などの客観的物差しとなる「外的基準」と、個人の価値観や適性、能力、興味という個人の主観的物差しとなる「内的基準」に分けられます。しかし前述の環境変化に挙げられた通り、昇進昇格や給与といった「外的基準」のみではすべての社員を満足させることは不可能であり、企業にとっても個人にとっても今後は「内的基準」を重視したマネジメントスタイルへの転換が不可欠であるとしています。
3. キャリア自立に関する定量調査結果
高橋氏の著書の中でも特に興味深かったのは、このキャリア自立に関する定量調査結果です。
■調査目的 内的基準における充実度や満足度の高いキャリアをもたらすキャリア自律行動とはいかなるものかを定量的に明らかにすること ■調査方法 アンケート調査(キャリアに関する行動パターンに関する約80項目の質問) ■サンプル数 14社、約2400人
結果の詳細は著書を確認いただくとして、概要は以下のように整理されていました。
(1)アンケート結果からキャリア自律行動をグルーピングすると「主体的ジョブデザイン行動」「ネットーキング行動」「スキル開発行動」に分類
(2)最も重要なのは、主体的ジョブデザイン行動(自分の価値観やポリシーをもって仕事に取り組んでいる、社会の変化やビジネス動向に自分なりの見解を持っている、部署・チームを超えて周囲の人を巻き込んでいる、自分なりの発想で仕事に取り組んでいる、仕事のやり方を工夫している、など)
(3)主体的ジョブデザイン行動を強化する個人特性は「前向きさ」「自己主張性」と相関が高い。環境要因としては「仕事の自己コントロール」との相関は高いが「上司のマネジメントスタイル」「組織、人事の仕組み」は影響力が少ない
(4)キャリア自律行動は、昇進昇格、給与などの客観的物差しとなる「外的基準」のキャリア意識を持った人よりも個人の価値観や適性、能力、興味という個人の主観的物差しとなる「内的基準」のキャリア意識を持った人の方が相関が高い
(5)個人としてのキャリア自律行動には、個人特性(前向き、自己主張)や仕事の自己コントロールなどミクロの話が左右するが、キャリア自律行動を取り始めた人が社内/社外でキャリア形成するか(離転職するか/社内に留まるか)選択する際にマクロの話(人事マネジメントや将来性のあるビジョン・バリューの徹底、報酬、環境など)が重要になる。
4. 【自律的キャリア形成】から組織のエンゲージメント向上を考える
今回は高橋氏が提唱する【自律的キャリア形成】を概観しました。
組織のエンゲージメント向上への示唆としては、
(1)キャリア自律行動を高めるには最も影響する「仕事の自己コントロール」をいかに高めるかが重要で、それを基盤に組織内キャリア形成意識を高める「人事マネジメント」や「将来性のあるビジョン・バリューの徹底」「報酬」「環境」を高めていく
(2)企業としても社員に出世や報酬を意識させるより自分らしさやユニークさを求める内的基準重視のキャリア意識を高める方が、自律的な行動を引き出しやすい
一方で
(3)キャリア自律行動への影響要因として「上司のマネジメントスタイル」「組織・人事の仕組み」は影響力は少ないとの調査結果でしたが、外的基準重視から内的基準重視のマネジメントスタイルの変更に際しては上司のマネジメントスタイルなど大きく影響するように思われ、この点については疑問が残りました。
今回は以上です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。少しでも皆さんの気づきになれば幸いです。
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