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アルハンブラ宮殿の思い出

大学と大学院は音楽学校に進学した。4歳上の姉は高校から音楽高校にて勉強するべくさっさと上京。なにせ、小学校6年生ころから、一人で寝台車に乗ってピアノのレッスンに通っていた。今はZOOMとかでレッスンできるけど、当時は電話しかない時代。

一方精神年齢も幼いし、あんまりコツコツ努力するタイプじゃない私に、父が「じっくりゆっくり、マイペースでやればいい」と言ってくれ、父と同じ地元の県立高校へ進学した。バイオリンといえば英才教育で、3歳4歳からみんな楽器を習って、楽しいことも全部諦めて、ひたすら練習に打ち込んで音大進学ということだけど、私は田舎でのんびりした音楽生活を送った。

映画館もひとつあるくらいの小さな町。バイオリンの先生は当時皆無。バイオリンを持ってるときは、ひたすら「同級生に遭遇しませんように」と祈るように、こそこそとバスに乗って長崎市内までレッスンに往復した。

「同級生に遭遇しませんように。」というのは、当時小学校の同級生の男の子でやはりバイオリンを習っている子がいて、ひたすら「あいつバイオリンやってるらしい」と半分おどろいたような、半分ひやかすような感じで噂されていたので、私はひたすら隠しに隠していた。「お嬢様なんだね」=「普通と違うんだね」って言われるのは、絶対に避けたい。そもそもお嬢様じゃないし!普通が一番。目立たないのが一番と思って過ごしていた中学時代。

✳︎高校生のある日

そして、普通に普通に生きていいくことが自分の精一杯だった高校時代。高校では芸術科目が選択制だったので、迷わず音楽を選択。1年生の三学期の授業は鑑賞の授業だった。

先生が有名な曲の素敵なフレーズを切り取って、「さあ、この曲は何でしょう?」という質問をするという授業。ピアノの曲はまあ分かる。声楽の曲もまあ有名なオペラなら。そしてギターのメロディが流れてきた。あれ?この曲知ってるけど、曲名なんだっけ?と思ってたら、同級生の女の子が「アルハンブラ宮殿の思い出」と即答した。

あの衝撃たるや!こんな田舎にクラシックが好きな子がいたんだ!音楽が好きな子がこんな近くに!とものすごく嬉しかった。もっともっと、自分も音楽やってる。音楽が好きって宣伝してればよかった。なにせ、田舎の文化といえばテレビ。ジャニーズでは誰が好き?なんていうお年頃。文化的な匂いがするのはアニメが好きなサブカル系のみ。

その後友達になったことは言うまでもない。しかも、その子はめちゃくちゃ優秀で、国立大学に進学して東京で就職した。

ギタリストのジュリアン・ブリームが亡くなったというニュースで、あの日のうれしい衝撃が蘇った。

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