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ベルリン初夏 白い虫との逃避行

バス停でバスを待っている、
なんとなく家を出て次に来るバスを待つので目の前で逃すこともあるし、ちょうどいいタイミングで来ることもあるし、待てど暮らせど来ないこともある。

今日は来ない日だった。

友人とイベント会場で落ち合う予定だが、すでに少し遅れている。

もう5月だというのにここ数日は少し寒い。
ベルリンの天気はここ5年で大きく変わっているらしい。

太陽の光が差している、木の枝にはたわわに緑の葉が茂っている、コンクリートには木漏れ日が揺れている、
待ち望んだ陽の光が差しているというのに、
あっという間に過ぎる夏を憂いている、
またあの冬が来る、
強い陽の光は暗くて冷たい影を落としている。

ああーあ、先のこと考えたってしょうがないや、と手に持っていたスマートフォンの背中側を眺めた。
ケースとの間にゴミが溜まっている。

ふと小さい虫がスマホケースの表面を歩いていることに気がついた。
小さい手足を動かしながら白い体を移動させている。
スマホを眺めなければ握りつぶしているところだった。

しばらく虫を眺める、
右側3本の足と左側3本の足の動きを観察してみたけども、動き方に法則性はないようだった。
全身白い虫、丸い腹の中は何が入っているんだろう、
スマートフォンの側面まで来て、ボタンの溝の淵でウロウロしていた。

バスが来た。
先頭、前方車両、後方車両のドアが3つ同時に開く。
前方車両に乗ってドアの近くに立つ。

黄色い手すりに捕まって移動する外の景色と一緒に虫を眺めた。
相変わらず短い手足を動かして右へ左へ動いている。

今、虫は今だかつてない速度で自身が移動していることに気がついているんだろうか。

一瞬目を離したら虫は消えていた。
スマホケースを隅々まで探して、自分の袖や服を眺めたけどどこに行ったか分からなかった。

訳もない、目ヤニよりも小さい虫だった。
一瞬だけの虫との逃避行、初夏を知らせる緑は青かった。