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雪のベルリン、方向音痴で凹む



-8℃ほどの気温が続く12月のベルリン。
白い風が吹き抜ける駅のホームで1人心を凹ましていた、東京の駅でもよく凹んでいたあの気持ちを思い出し懐かしく思う。

少し高い所に位置する駅のホーム、向こう側に真っ直ぐ突き抜ける通りと、その脇に伸びる木、両サイドには東ドイツ的な5階建ての建物が続いている。
木の頭も、建物の屋根も、うっすら白く霜のような細かい雪が積もっている。
雨なんだか雪なんだか分からない白い粒が風に舞って自由に飛び回り、遠くの景色を霞ませ、曇り空を白く覆っている。

いいよなぁ、私も風に乗って会場まで飛べたらいいのに。

そんな軽口さえ頭に浮かぶ余裕がないほど苛立ちと、やるせなさと、そんな自分への嫌悪感が湧いては体内に溜まっていく。

参加中のクリスマスマーケットはもう始まっている時間だった。
出店中のブースは昨日の時点でセットアップしてあり、売り手の私だけがその場にいない状態。
他の出店者はとっくに車で会場に着いているだろう。
隣のブースのブリジッタは会場から歩いて行ける距離のアトリエに住んでいる。

よくある電車の運休。
移動の乗り換えがうまくできない、一言で言うと私は究極の方向音痴なのだ。

今回は土日の2日間、ベルリンの東に位置するシューネヴァイデという旧工場が立ち並ぶエリアの、ローカルなクリスマスマーケットに参加して草木染の作品を販売していた。

普段あまりベルリンの中心地から遠くへ出ることのない生活をしているので、たまに遠くへ行くと慣れない景色や風景に気を取られ大体数本電車やバスを逃すのはよくあることで、しかしそこで立ち寄ったパン屋がフレンドリーだったり、駅のデコレーションが特徴的だったりするのでそれもいい思い出になったりする。

問題はそのシューシューネヴァイデの駅が規定区間内で電車が動いておらず、不規則な運行状況になっていたことから始まった。
こういった状況は特別ではなくベルリンではよくあることだ。

代替えのバスは運行しているものの、道路工事もあちこちで行われているのでバス停を探すのにも時間がかかり、やっと乗ったバスは目的地でボタンを押しそびれて乗り過ごしてしまう。

乗客は寒さで肩を丸め沈黙を保っている。
臨時のバスだからか、普段乗り慣れている真っ黄色で明るい雰囲気のバスではなく、以前使用していた車種を引っ張り出してきたのか、硬い椅子に暗い色の塗装、電工掲示板もかろうじて読めるほどの光りかたをしていた。

ああ、このまま地獄にでも向かうのかな。そんな風に見えたのは私の心が地獄へ向かっていたからだろう。

次の駅で一人降り、地獄行きのバスは急ぐようにドアを閉めものすごい速さで過ぎ去っていった。

万一反対方向の電車は動いてるかも?と駅のホームに登ってみるもやはり運休の案内だけがホームに立っていた。
急いで一駅分戻るバス目掛けて、道を渡ると中洲で信号が赤に変わりバスを逃した。

そもそも、問題なのはドイツの鉄道会社でなく私自身にあるのだ。

目的地まであまり調べもせずに感覚で移動する癖がある、その上方向音痴。

日本にいた頃も東京の端っこで生まれ育ったので都内に行くのによく電車移動をしていたが、乗り換えに迷い、違う方向へ向かってしまい、駅のホームでよく途方に暮れていた。

変に自信のある方向音痴はいつまで経っても治らない。

そんな時に思うのはいつも、よくここまで移動で失敗を重ねられるなあ、という自分への関心と面白さ、それと同時になんで移動ひとつできないんだという自己嫌悪と苛立ち。

もっといえば問題と思い辛くなるのか、ギャグだと思い面白がれるのか、全ては外的要因ではなく内的要因に起因している。
世界は自分が作り出している。

言い訳にしたくないが、そんな時に相性が悪く生理前だと、面白いくらいに気分は下降の一途を辿り世界は色を失う。

中途半端に落ち込むのは良くない、
バスを逃したバス停で大声でバーーーーカ!と自分に叫んだ。
大通りを走る車のタイヤとコンクリートが擦れる湿った音に混じってバカは白い空へ溶けていった。

美しい白銀の東ドイツ、途方に暮れる青い髪の日本人がテキトーな性格故に電車もバスもうまく乗れず会場にも遅刻をしつつも地方の家族連れが訪れるクリスマスマーケットに一人出店する、

そんなこんなで今日も生きていいて、世界はこんなにも美しい。

こんな日があった事を思い出して懐かしく思うんだろうな、

会場に着いたら真っ先にホットチョコレート(生クリーム乗せ)を飲み、気分はそれだけで幸せになった。
女心と冬の空、ホットチョコレーが雪と共にバカを溶かし甘く包み込んだ。