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ギムレットを飲むには早過ぎる【上】

前回の、ここ最近私に突如降りかかった顔面の悲劇の話「女もつらいよ。」は読んで頂けただろうか。

未だ読んでいないという方は、今回の話を読む前に是非そちらを先に読んで欲しい。

御察しの通り、私は今自分に迫っているヒゲ問題をどうにかせねばと思う反面、何かにつけていちゃもんを付け、異性との出会いを避ける「ぐうたら女」である。

前回登場した男性に関しては、最終的に逃げるようにして何とか言い繕い、デートをきれいさっぱりキャンセル。

リスケの連絡が来てはいるが、案の定未読スルーの冷戦状態だ。

「どうか…どうかお察しください」と日々願いながら、最早岩のように固まって微動だにしない私の心と身体は、もう代官山に向かう事はないのである。

二兎を追う者は一兎をも得ず

実は、そのアメリカ人とのデートと同じタイミングで、イタリア人の男性からもデートの申し出があった。

彼とはなんと約 7ヶ月前から知り合っており、彼がイタリア在住の為なかなか過去にちゃんと会う機会を設けることが出来なかったが、今回仕事の為に来日するというので会う約束をした。

勿論イタリア人男性全員が情熱的だとは言えないが、特に彼に関してはラテンの血が騒ぐ、非常に情熱的で洒落たイケメン親父だ。


会う以前から終始炸裂する

「早く会いたい!」

「なんて君は美しいんだ!」

といった類のものは、言ってしまえば彼らにとって挨拶のようなものだろうが、これを言われて嫌な女性は少ないだろう。


しかし、ほんの少し連絡をせずに放っておくと、

「君は僕のことを忘れてしまったのか?」

「僕はこんなにも君を思っているのに!」

と、急に面倒くさいのである。


「あぁ、ごめんね。私はそんな連絡がマメな人間ではないというだけで、別にあなたの存在を忘れているわけではないのよ」

と柔らかく躱したものの、挙げ句の果てには、

「君を愛している!」

「君は僕を愛しているか?」

と、瞬く間に圧倒的強さ&速さで、面倒くさい男ランキングの王者に堂々君臨。

再度確認しておくが、私たちはまだちゃんと会った事がない。

とりあえず私は、心の中で「めんどくせぇぇぇぇぇえええ!」と叫びながらも「気持ちはすごく嬉しいけど、私はちゃんと会った事もない男性に興味や好意を持つ事はあっても、決して愛す事はない」とだけ伝え、そっと予防線をはった。

そして、彼の愛たるものは、私の想像以上にヘリウム級に軽くフワフワだったのである。


既にカップルだったり、完全に脈あり確定の熱々な関係ならまだしも、今回の様なケースで起きる謎の愛の囁き大会が得意でない私は、前回のアメリカ人との冷戦と同様、会う約束は取り付けたものの気乗りがせず、案の定適当な言い訳をしてそそくさと隠れる様に、一人ベッドに潜り込み溜息をついた。

こんな気まぐれでノリの悪い私の態度と言動に、予想通り彼は非常にがっかりした様子だったが、私はもう彼から嫌われてもいいから、一刻も早くこの現場から逃れたくて仕方がなかった。


終わりなきイタリア戦

「えーい!一層の事嫌われてしまえー!」と勇気を振り絞りドタキャンを宣告した私は、彼に対して申し訳ないという罪悪感を感じながらも、やはり自分のこの言葉にならないモヤモヤとした心の違和感を隠し続ける事ができず、自分には嘘をつけないと心から思った。

そしてその日にやっと、彼からの連絡は静まった。



と、思うじゃないですか。

私も、この状況を考えたら一旦冷静になって身を引くのが一般的だろうと思い、最早呪いの様に絶え間なく送られてくる愛のメッセージ攻撃から解放され、背中に羽が生えたように心が軽くなっていたのだが、このイタリア人男性の根性と情熱とヘリウム的な愛とやらは生半可なものではなく、甘く見てはいけなかったのである。


「君とせっかく会えると思ったのに非常に残念で悲しいよ」

「会えると思っていたからとても幸せだったのに、今日のこの気分が台無しだ」

と、悲しみと少々の恨みさえ感じる呪いのメッセージが、携帯の画面に再び次々と現れ、彼はいつでも期待を裏切る事なく全力でうざいのである。

私は、「うん、本当にごめん。勝手な都合で約束を果たさなかった私が悪いから、あなたの不満は全て聞き入れるよ」と返し、とりあえず彼の中に垣間見える怒りの感情を宥めるよう努めた。

とりあえず、私はこの彼が持っている不満や怒りを一通り私に全部ぶちまけたら、落ち着きを取り戻し彼の方から去っていくだろうと思い、その理想のシナリオから脱線しないよう誘導をし続けた。


すると彼は遂に、

「わかったよ」

「僕も子供ではないから不満を君に溢したりしない」

と言い放った。

「いやいや、もう十二分に大人げなく不満ぶつけまくってるがな!」と言いたいのは山々だったが、その気持ちを抑えて待望のクロージングに取り掛かろうとしたその時だった。


「僕を信じてくれ」

「僕は君と会うのを7ヶ月も待ったんだよ!」

「君にこの僕の気持ちは理解できないだろうけど、本当に会いたいんだ!!」


……………。


本当にしつけぇぇぇぇええなぁぁぁぁあああああ!!!

と即座に私は心の中で発狂し、あまりの彼のしぶとさに呆れ返った私は、最終的に折れてスケジュールを組み直し、この危険な匂いがプンプン漂う彼と会うこととなってしまったのであった。

元はと言えば、失われた女性ホルモンを取り戻すために、応急処置的なロマンティックデートを渇望していたのにも関わらず、結局はただのめんどくさい男を静ませる為のデートをセッティングする羽目となってしまったこの流れは、完全に想定外である。

私は彼と会った後、無事に生きて帰ってこれるのだろうか。


窪 ゆりか

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