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私の中の釜爺に従ったら、ひとつの家族を救っちゃったかもしれない。

この話は、これらの話の続きです。
未読の方はぜひこちらから。

思いが溢れすぎて、何から書いていいかわからない。

そんな時は、結論から言おう。

マコと、弟ガソレが、学校に通い始めた。


こんなこと、誰が信じるだろうか。
あの時うなだれてた私、聞いてるか?
お前とんでもないことをしたぞ。やったぞ。やったんだ。

とりあえず結論を言ったので、話を遡っていこう。



遡ること、何日前、かわからないが、マコの家族が抱える問題は、”最貧困”ではないということがわかった。

毎日、拙すぎる現地語でマコや近所の人たちに聞いた結果、マコの母マリアはネグレクト気味だということがわかった。

そして家族構成も、5人子どもがいるのは確かだが、一緒に暮らしてるのは3人だけ。

・マリア(母、35歳)
・マコブガ(8歳)
・ガソレ(5歳)
・ベビ(2歳)

マリアは働いていて、給料ももらえている。

じゃあなぜ子どもたちは飢え、ボロボロの服を着ているのか。

それは、マリアがお酒に依存していたからだった。

マリアは日中子どもを放置し、十分な食事や綺麗な服を与えず、夜になるとベビを背負ってバーに行く。

8時から10時の間に泥酔して帰宅。

「ママは私たちを嫌っている」「お腹がすいてつらい」「今日はパンツがなかったから、スカートしか履いてないの」

毎日聞かされるそんな訴えが、つらく、また、マリアへの怒りもこみあげていた。

「昨日から何も食べてない」と言われればパンをあげ、「体を洗いたい」と言われればシャワーを貸し、「ママは私が嫌い」と言われれば膝にのせてハグをし…

いつも裸足だった3人に、靴も買った。服もあげた。

でも、マコにあげた服は、マリアに取られてしまった。


マコたちは早くも私に依存しはじめ、毎日家の前で遊んでいる。
私が門を出るとすぐに走ってきて、抱きついてくる。

終わりの見えない支援の仕方をしていた。

でも、私の任期は終わりが来る。

2年後、私がここを去るとき、この子らはどうする?

ご飯をくれて、愛情をくれていた人がいなくなる。

その時、マコは10歳。

字も書けない、読めない。
いつも一緒にいるのは、自分より小さい子どもたちだけ。


この子らに、明るい未来なんてない。


そう思った私は、身近な人たちに手当たり次第に相談しはじめた。

近所の先生たち、うちの警備員、配属先の人たち。

みんなに軽くあしらわれながら、相談し続けて、ついに、ソーシャルワーカー的な人、ジャドが親身になって聞いてくれたのだ。

「じゃあ、家に行ってみよう」



そして昨日、ジャドと二人でマコの家を訪ねてみた。

やはりマリアに会うのは怖かったけど、仕方がない。

今まで十分に聞き取りができてなかったことを、現地語でしっかり聞き取ってもらった。

マリアも、色々と正直に話してくれた。私があげたシャツ着てたけど。

そして、
①毎日ご飯を与える
②お酒をやめる
③木曜からマコを学校に行かせる
④子どもらの服や体を洗う
⑤マコにシャツを返す
という約束をした。

ジャドは、「週一で監視しに来る。守れなかったら、警察を連れてきて、この家を追い出す」と言った。

すげえ言うじゃんと思ったけど、そのくらい言わないと変われないのかもしれないね。

「私が友だちになるよ」と、マリアと握手し、退散。


そして今日、いつも通り配属先に出勤したのだが、落ち着かない。

心がざわざわ、体がもぞもぞ。

「ごめん、やっぱ今日マコの家に行って、マリアの洗濯手伝ってくる」

同僚にそう言って、即座にマコの家へ。


すると、家の前に、マリアとベビが。

そしてベビは、いつもより少し綺麗な服を着ている。

「おはよう。洗濯しに来たよ」とマリアに言う。

するとマリアが、
「ありがとう。マコブガとガソレは、学校に行った」と。

それを聞いた瞬間、自分で気づく間もなく、大粒の涙が溢れた。

ハクの作ったおにぎりを貪る千尋のように、わんわん泣いてしまった。

マリアは不思議そうにしていたが、私が「嬉しい、嬉しいよおおおお。ありがとう。あんた良い母親だよおおおおお。」などと言っていたら気持ちが伝わったようで、にっこり笑っていた。

そしてさらに驚いたのは、家の前に、すでに洗濯物が干してあった。

私が来る前に、すでに洗濯をしていたのだ。

「あんた良い母親だよおおおおおおおおお」とさらに喚き散らした。

その後は、ベビと3人でビスケットを食べながら洗濯の続きをした。

一通り終わって、家路へ向かう。

一人になったら、また涙が出てきた。

出会った頃は、靴も履いてなかった子どもたち。

毎日ボロボロの服で、平日でも、毎日朝から晩まで外で遊ぶ子どもたち。

学校へ向かう子どもたちを見ると、気まずそうに目をそらしていた子どもたち。

そんな子どもたちが、学校へ。



見に行くしかねえ。

とりあえず一旦家に帰り、警備員と泣きながら抱き合った後、すぐに学校へ向かう。

学校に入った瞬間、大混乱。

そりゃそうだ、みんな大好きムズング(外国人)である。

そして運悪く(良く)、ちょうど休み時間だった。

「マコブガとガソレはどこじゃ~!!??」と叫ぶと、みんなが「マコブガ~!!」と叫んで探してくれた。

そして、

見つけた。

制服を着た、マコ。

また、涙が溢れた。

襟付きのシャツ、そしてカバン。

あんたがカバンなんて持ってるの初めて見たよ。

シャツの下に着てるのは、私があげたTシャツだ。

号泣しながら抱きしめると、照れくさそうにしていたが、同時に誇らしげでもあった。

「ガソレは?」と聞くと、マコが手を握り、「あっちだよ」と案内してくれた。

背後には、大勢の子ども。

何事かと思われる様子である。

そして、見つけた。

自分の唾で脚を洗っていたガソレが、他の子どもたちと一緒に野外授業を受けていた。

再び泣く私。

二人の勇姿を写真に収め、抱きしめ、「がんばれよ!」と言い、教室に送り届けた。


これが継続できるか、ちゃんと勉強についていけるか、わからない。

でも、人生の選択肢が増える。

字の読み書きができるようになる。

英語が少しでもわかるようになる。

集団生活の中で、常識や人間関係を学ぶことができる。

何か問題が起きたら、気づいてくれる大人がいる。

路上で、兄弟の世話をしていたら、選択肢なんてない。

もしかしたら彼らは、ものすごく勉強をがんばって、いい成績を取って、立派な大人になるかもしれない。

そんな選択肢を与えることができた。

それだけで、信じられないほど、嬉しくて、幸せで。

何かもう感極まりすぎて文章のまとめ方を忘れてしまったのだけれど、とにかく、この家族を、少しだけ救っちゃったかもしれないという、そんなお話でした。



その後は生徒たちとめちゃくちゃバレーボールして疲れました。おわり


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