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クリス・オウエンのツイート - ロシア軍の腐敗シリーズ(3) 軍とギャングカルチャーとの問題点について

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ロシア軍に所属しているのであれば、なぜこのような人達からの保護が必要なのか、また、同時に彼らのような振る舞いに憧れるのか?その答えは、ロシアのギャング文化にある。このシリーズの第3回目では、ロシアの軍部腐敗の壮大なスケールの背後にあるいくつかの要因を見ていくことにする。

ロシアは、しばしばマフィア国家と形容される。しかし、マフィア化した国家、つまり、より広い社会が犯罪の手口や言語を取り入れた国家と呼ぶ方がより適切かもしれない。ロシアの組織犯罪の歴史は長く、ソビエト時代よりかなり前にさかのぼる。

犯罪を取り締まろうとしたソ連の努力は裏目に出た。収容所は、犯罪者の訓練と勧誘の場となり、ギャングの結成を促した。腐敗したソ連の役人とKGBは、国家が満たせないニーズを満たすため、あるいは否定できる(闇の)財産として、犯罪ネットワークを利用し始めたのである。

ゴルバチョフ時代には、経済の自由化を利用した犯罪ネットワークが闇から出現した。1990年にソ連が崩壊し、その資産が民営化されると、役人は犯罪者に目をつけ、最近取得した国有財産の清算を手伝わせた。

旧ソ連の多くの地域で-ロシアだけでなく、ウクライナでも大きな問題になっている-社会はこうして「マフィア化」していった。犯罪的な行動が、物事の通常のやり方となった。オリガルヒは財産を得るために犯罪的手段を用い、ロシアの組織犯罪は世界規模になった。

ロシアの犯罪化の最も重要な側面の一つは、ロシア社会の組織原理としての「クリシャ」(文字通り“屋根”)の発展であった。わかりやすく言えば、みかじめ料である。

合法的であろうとなかろうと、ビジネスを行うためには、他者から「保護」(クリシャ)を得る=みかじめ量を払う。クリシャがなければ、敵や単にあなたから盗もうとする者達に対して脆弱にになる。それはしばしば、ロシアの腐敗し壊れた警察や司法制度の代わりとなる。

クリシャ(保護)は、現物支給や、社会的・政治的な義務を通じて、あるいは単に賄賂によって手に入れることができる。一般企業からトップ政治家に至るまで、あらゆるレベルで機能している。また、腐敗した役人からクリシャを得ようとする組織的な犯罪集団の中でも機能する。

ロシア軍の腐敗の根底には、クリシャがある。軍隊はそれ自体、暴力団の被害を受けやすい。複数の地域で、組織的犯罪集団が、恐らくクリシャの保護下にある軍隊全体を恐怖に陥れ、恐喝し、略奪し、攻撃している。

あるケースでは、2017年から2021年にかけて、ケメロヴォ州のユルガ市で、ムダリス・タルティコフというギャング(マンダリンまたは熊のミーシャというニックネーム)が、そこを拠点とする3つの軍事旅団を強請(ゆす)った。この基地は、ロシア兵達から「呪われた場所」という別名で呼ばれていた。

タルティコフのギャング団は、基地の入り口のすぐ外に検問所を設置し、そこで契約兵士を止めて、毎月10日の給料日の分け前を強要した。拒否した兵士は拉致され、殴られ、恥をかかされ、カメラで録画され、脅迫された。

タルティコフは、地元の法執行機関や軍の司令官、更にはロシアの国内治安機関であるFSBと「コネ」、つまりクリシャを持っていると自慢していた。彼は2021年2月に逮捕されたが、賄賂を支払った後、すぐに釈放されたと言われている。

ウランウデ、トランスバイカリア、チェリビンスク、フォキノと、ロシア各地で同様の事例が報告されている。共通するのは、中央政府の力が弱く、地方政府や警察が圧倒的に腐敗している遠いテリトリー(僻地)で起こることが多いと言うことである。

もう一つ注目すべきは、中国国境近くの村で、大規模な軍事基地が支配するセルゲイエフカで起きた事件である。この村に拠点を置く機関銃・砲兵師団は、実際に基地に住んでいたルスラン・コベッツという名のギャングに何年も脅かされていた。

コベッツは日常的にセルゲイエフカの2500人の兵士を強請り、基地に保管されている車両を略奪していた。兵士の少なくとも半数はクリシャの代金を支払い、一団は基地に入り込んで代金を回収した。コベッツが自分のクリシャのために買収した将校が彼らを保護したのであろう。

「給料日には10万ルーブル(約25万円)、時には50万ルーブルが部隊から引き出される」と、セルゲイフカのあるギャングが言っていた。ギャングだけでなく、他の兵士達も恐喝に加担した。

彼の免罪符となったある事件では、酔ったコベッツと彼の一団が、セルゲイフカの車両サービス責任者のファイザリエフ中佐、大砲責任者のグリゴリエフ大佐、偵察責任者のシャガン大佐、それに少尉数名を殴打した。しかし、コベッツは逮捕すらされなかった。

暴行された将校は警察への供述を取り下げ、他の部隊に異動させられた。コベッツは基地への立ち入りを禁じられたが、その命令を無視した。ジャーナリストがこの事件を暴露して初めて、彼に対する措置が取られたが、それでも恐喝は続いた。

警察官が基地内に配置されたが、セルゲイエフカの兵士によると、唯一の変化は、基地内でクリシャの支払いをする代わりに、村に支払いに行くようになったことである。「金より健康(身体)が大事だ」と言う人もいた。

腐敗が普遍的な環境では、それに挑戦しようとする者はほとんどいない。ユルガ市の兵士達は、「みんながやっているから」という理由で金を払った。彼らは頼れるものがなかった。彼らの将校の何人かは、おそらくゆすりに加わっていたが、指揮官は知りたくないようだった。

軍司令官もまた、文民の犯罪者を管轄せず、彼ら自身の不正を暴くことになるため、文民警察と協力することは望まなかった。汚職防止運動家が言うように、「汚れたリネンを小屋から持ち出すのは悪いことだと信じられている」のである。

ユルガ市の件はどのように結論づけられたのか?公式には、軍関係者による恐喝は1件も見つかっていない。ムダリス・タルティコフは2021年12月に世論の反発を受けて再逮捕され、現在は懲役7年の可能性がある罪で裁判待ちの状態だ。

ロシア軍のあらゆる階層でクリシャが働いている。多くの汚職事件は、犯人が保護されているため、明るみに出ることはない。たとえ彼らの活動が特定されたとしても、クリシャのせいで起訴されないかもしれないし、仮に起訴されたとしても、クリシャのせいで軽く済まされるかもしれない。

このシリーズの最初のスレッドで、セルゲイ・セルキン大佐の例を紹介した。(スレッド2の30)元北コーカサス軍管区の糧食係長だった彼は、賄賂をもらって、腐敗の早い牛の餌を3500トン買って、部隊の食料として使っていた。

セルキンは逮捕され、裁判にかけられたが、裁判所は検察が要求した懲役5年ではなく、「全く無益な法律違反をした」という判決を下した。そして、わずかな罰金で釈放され、地位も維持された。

その後、判事のウラジミール・ブクレフがセルキンから19万ドルの賄賂を受け取っていたことが明らかになった。更に、その後の法廷でのセルキンの自白によれば、ロシア軍の司法制度の最高レベルでは、最初から八百長が行われていたのである。

セルキンによると、モスクワの副軍事検察官が「私の事件の担当者は誰で、...問題の解決は50万ドルの価値があると言った。」セルキンは最初に16万ドルの賄賂を支払ったが、裁判になるのを止めるには十分ではなかった。

クリシャはシステムのトップまで行く。私はまた、愛人のモスクワの高級マンションでバスローブ姿を発見され後、30億ルーブルの汚職スキャンダルで、 2012年に解雇された元ロシア国防大臣アナトリー・セルジューコフの話も取り上げた。

彼は比較的軽い罪で起訴されたが、2014年にウラジミール・プーチンによって恩赦された。彼は明らかにプーチンからクリシャを手に入れていた。彼が捕まったのは、ロシア軍の改革を行ったためで、法的な理由ではなく、政治的な理由だと広く噂されていた。

セルジューコフは、ロシア軍の専門化の一環として、現在の大隊戦術グループ(BTG)のシステムを構築した。しかし、彼は将軍達を大いに怒らせた - 特に、彼らのほとんどが大失格となった強制的な身体検査を受けるように命じた事によって。

愛人のエフゲニア・ワシリエヴァはどうなったのか?自宅軟禁中に、自作の詩集を発表し、猫の肖像画の展覧会を開き、ジュエリー・ラインを立ち上げた。ミュージックビデオを撮影し、バラク・オバマの肖像画を描き、オバマに送った。

最終的に彼女は5年の懲役を言い渡され、2015年8月21日にウラジーミルにある流刑地に報告された。彼女は8月25日に仮釈放されたが、これは5年の刑期の5日目であった。ワシリエヴァとセルジューコフはその後、エリート社会に再び受け入れられている。

政治的権力ほど大きく優れたクリシャはない、そしてウラジーミル・プーチンほど多くの権力を持っている者はいない。ロシアで一番大きな屋根(クリシャ)は、10億ドルの宮殿の上にある。クリシャの支払いは、おそらく彼の推定2000億ドルの財産に貢献し、オリガルヒから強奪したと言われている。

クリシャは、モスクワ郊外にある1800万ドルの豪邸の存在を説明しているようだ。アレクセイ・ナヴァルニー。は、現在のロシア国防大臣セルゲイ・ショイグ(年俸12万ドル)のものだとしている。それが合法的に支払われた可能性はほとんどない。

結局のところ、軍隊はクリシャのルールで動いている。十分に強いクリシャ(プーチンより強いものはない)があれば、全てが許され、何も禁じられてはいない。ボスが守ってくれる限り、安泰と言うわけだ。

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