【短編】友だちとかいう厄介な生き物

「友だち」なんかじゃない。
少なくとも私はそう思っている。
ただ、同じ職場で働いていたことがあるだけ。
お互いにその職場を離れた後も、SNSでつながっているだけ。
たまに投稿した写真にいいねを押したり、コメントをしてくる。
「友だち」なんかじゃない。
その証拠に、私は彼女の投稿に反応しない。
正直、好きなタイプでもないし、共通点があるわけでもない。
ただ、ある一時期、同じ職場にいたというだけ。
彼女が勝手に「友だち」と称して、私が1人で本を読みながらランチを楽しんでいるテーブルにぶしつけに乗り込んできたり、電車の席に座って鞄から本を取り出したところで、申し合わせたように同じ電車に乗り込んできていただけのこと。
いい大人のくせに、後をちょろちょろついてくる彼女を、正直私はめんどくさいと思っていた。
しかも、いつも延々と、聞きたくもない職場の悪口を言って、毒を吐き続ける。
それでも、邪険にすることはできないから、仕方なく適当に話を聞くふりをして、気のない相槌をしていただけ。
それがきっと彼女には心地よかったのだろう。
反論しない。
話を聞いて、賛同してくれている。
きっと自分と同じように、職場に対して憎しみを抱いているに違いない。
つまり、「友だち」というわけだ。

だんだん、彼女は、SNSの私の投稿に対抗するように、似たような写真をあげはじめた。
めんどくさい。
何のリアクションもせずにいたら、ある時から、彼女の私の投稿へのコメントが変わり始めた。
「優雅なひととき」が「もてあます時間」に代わり、「ひまそう」、「うらやま」…。
かまってほしいというのがありありと伝わってくる。
否、そんなつもりはないのかもしれない。
私がめんどくさいと思っているから、そう受け取ってしまっているのかもしれない。

それから、しばらくSNSへの投稿を控えた。
すると、今度は自分が持っていなくて、私が持っているものを揶揄するような投稿をし始めた。
鬱陶しい…
私は何のためらいもなく、ブロックボタンを押した。
友だちなんて、いらない。

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