【短編】宗教の勧誘

遅く起きた土曜日。
春分を過ぎた太陽は力強さを増していて、カーテンの細い隙間から鋭い光線を放っていた。
昨夜、味の薄い外国ワインを飲み過ぎたせいで、だるい体を無理やり起こす。
冷えたキッチンに立ち、安いインスタントコーヒーに濃い牛乳を注ぐ。

地方局では、相変わらず朝から色の薄い昔のドラマを放映している。
もう何度も何度も見ているから、ストーリーはもとより、主人公のセリフも覚えてしまった。
都会では、新しい商業ビルにできたおしゃれなカフェとか、日本でここでしか手に入らない珍しい食べ物とか、日本で最新のトレンドを紹介するような情報番組にたくさんスポンサーがついているのに。

週末だからといって、出かけるようなところもないし、一緒に楽しくおしゃべりするような友だちもいない。
否、もうすでに、そういうことには疲れてしまっている。

何の感情も持たずに、ソファに座って、カフェオレを飲みながら、テレビを凝視していると、インターフォンがなった。
知り合いが誰もいないこの街で、誰かが来るはずもないし、しばらく宅配便が来る予定もない。

恐る恐るインターフォンを覗くと、メガネをかけた身なりのいい、人の良さそうな男性と、野球帽をかぶったいかにも田舎のおじさんといった風の男性が画面に映っていた。

「先の見えない時代に、これからどうやって心安らかに暮らしていくかを話しませんか」

なんだ、宗教の勧誘か。

何もない日常に満足している自分には、必要なさそうだ。

「今、お料理をしているので、また今度お願いします」

画面の向こう側で、紳士がのけぞるのが見えた。
それを見て、思わず微笑んでしまった。
こういう休日も悪くない。

宗教の勧誘に来たお二人にも、自分なりの幸せがあるんだろうな。

ありがとうございます! 短編集の制作に使わせていただきます!