村田百合 |Yuri Murata

パリで暮らしている建築家、32歳です。日本語と英語とフランス語で、色んなことを考えて、…

村田百合 |Yuri Murata

パリで暮らしている建築家、32歳です。日本語と英語とフランス語で、色んなことを考えて、模索する毎日は、なんとなく、かなり楽しい。頭の中のアイデアを言葉にし、形にし、世の中との接点を増やしていきたい。

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  • 建築とアジリティ

    建築とは相性が悪いが、IT系スタートアップやソフトウェア開発界隈では頻出単語である、アジャイル。 この考え方が浸透しつつある背景のひとつには、世の中全体が「強者生存」から「適者生存」へ移行していることがあげられる。つまり私たちは、資本力という絶対的な指標によって強者が決まるのではなく、変化への適応能力がある者が勝つ社会へと変わりつつあるのである。 このとき「持続性」とはむしろ、一つの安定状態を保つのではなく、状況に応じて変化し続けることであると言え、ゆえに今の時代は、変化をしないほうがリスクなのである。 となると、竣工をゴールと捉えている現状の建築業界の在り方は、もはや時代遅れなのである。今のうちから、アジャイル設計を積極的に取り入れ、時代に適し続けるためのマインドセットを培うことが必要なのではないだろうか。 そんな思いで綴った、私の論考です。

最近の記事

美しさを聞く

「聞く」という日本語は、ちょっと面白い。 子供があーだーこーだと言うことを、「聞き分けが悪い」と表現する。お酒の良し悪しを判断することを「聞酒」という。香道の世界では、香りをかぐことを「聞香」という。つまり、香りとは「嗅ぐ」ものではない。「聞く」ものなのだ。 日本語において「聞く」のは、耳だけではない。耳から入る音情報に対して使われる英語の"listen"よりも、だいぶ幅が広い。ものごとをよく観察し、心で受けとめ、頭で考え、自分なりに咀嚼する。全身全霊で向き合う。そんな意

    • 音楽と建築

      「音楽のような建築」という言葉がはじめて頭に浮かんでからといい、私はこの言葉にとりつかれている。 音楽と建築という相容れない二つの概念を組み合わせた、ちょっぴり文学的な表現に、酔いしれているだけかもしれない。 いずれにせよこの記事は、音楽を奏でるように体験する空間とその価値について考えた私の随筆である。 時間芸術としての建築絵画が〈空間芸術〉であるのに対し、音楽は〈時間芸術〉。 芸術の世界においては、このような対比が存在するらしい。 このような分類がなされるきっかけと

      • 日本語と建築

        日本語で話すときは、頭の中も日本語。 英語で話すときは、頭の中も英語。 頭の中でいちいち通訳していたら、とても思考が追いつかない。 日本語では言いにくいけど、英語だと言いやすいことも少なくない。 その逆もしかり。 使っている言語を切り替えると、そもそも、脳のモードが切り替わっているように感じる。 日本語で考える自分と、英語で考える自分。 ある意味、性格も少なからず変わっているのかもしれないと考えると、とても面白い現象だと思う。 実際にこれは、単なる私の経験知的な話

        • 【どうせなら、肩幅広めの肩書きが欲しい。】vol.2 建築観

          建築設計の仕事をはじめて、気が付けば丸3年が経っている。 前回の【どうせなら、肩幅広めの肩書きが欲しい。】vol. 1 建築家の可能性 で書いたように、私はこの3年で色々なプロジェクトに携わる機会に恵まれた。 かなりボヤっとしていた自分の建築観の輪郭が、この3年の経験を通じて、なんとなく見えてきた気がする。 定義三刀流の仕事人 まずは、「建築家」の私なりの定義づけから。 私にとって建築家とは、アーティスト・エンジニア・戦略家としての顔を兼ね備えた「三刀流の仕事人」であ

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        • 建築とアジリティ
          3本

        記事

          plowβ -運用開始のお知らせ-

          私たちは、plow(プラウ)というオンラインプラットフォーム事業の立ち上げに先駆け、2023年より、plowβの試運転を開始します。 plowは、”生活を自分らしくアップグレードしたい!”という願いを持つユーザーと、それを実現するアイデア・スキルを持つプロとをつなぐプラットフォームです。ちょっとしたオーダーメイド家具や、小規模改修などの小さな建築設計プロジェクトを産出し、若手・ベテラン関係なく、誰もが同等に戦える設計業界の新たなマーケットプレイスとなることを目指しています。

          plowβ -運用開始のお知らせ-

          建築とアジリティ vol.3 『アジャイル設計』を体系化する。

          前回の建築とアジリティ vol.2では、アジャイル開発のノウハウの中の、建築設計プロジェクトに応用できそうな手法や考え方を取り上げた。いよいよ今回は、それらのアジャイル原則を設計プロジェクトに具体的に落とし込むため土台について書いていきたい。 ◆ 『アジャイル設計』の現状設計業務のフローは、実はアジャイル的? 具体的な土台に入る前にまず、建築設計プロジェクトの現状について考えてみたい。果たして、設計の仕事は実際のところ、言うほどアジャイル開発とかけ離れているのだろうか。

          建築とアジリティ vol.3 『アジャイル設計』を体系化する。

          建築とアジリティ vol.2 『サグラダファミリア』はアジャイル建築か。

          前回の建築とアジリティ vol.1では、ソフトウェア業界では当たり前の概念となりつつある『アジャイル』を建築の世界にも応用することで、設計業務の在り方がガラッと変わると同時に、建築そのものの幅もさらに広がるのではないか、と述べた。 今回は、アジャイル原則を建築に取り入れることで体系化される『アジャイル設計』の可能性をさらに考察し、ひとつのスキームとして構築していく上でも、根源にあるアジャイル開発そのものについて、理解を深めていきたいと思う。 ◆ アジャイルを理解する。アジ

          建築とアジリティ vol.2 『サグラダファミリア』はアジャイル建築か。

          建築とアジリティ vol.1 『アジャイル設計』の可能性を探る。

          『アジャイル』という言葉をご存知だろうか。 建築の世界ではほとんど馴染みのないかもしれないが、IT系スタートアップやソフトウェア開発界隈では頻出単語である。 『アジャイル(agile)』という言葉自体は、「素早い」「機敏な」「柔軟性がある」などと直訳される。『アジリティ(agility)』は、その形容詞形。 『アジャイル開発』とはすなわち、小さな単位で実装とテストを繰り返し、素早くかつ確実に開発を進めていく手法である。 私自身がこの概念に初めて出会ったのは、Eric

          建築とアジリティ vol.1 『アジャイル設計』の可能性を探る。

          悩める30代女子たちよ。幸せになる筋肉を鍛えよう。

          私はよく周りの人に「百合って、なんかいつも楽しそうだよね」と言われる。 実際のところ、とてもありがたいことに、毎日はすごく楽しい。 これから30代を突き進むのが楽しみで仕方ない。 だから、幸福度はそれなりに高い方だと思う。 何も、自慢したわけでは全くない。 私がここで伝えたいのは、たった一つ。 私の幸福度がそれなりに高いのは、何か誰かにうらやましがられるような偉業を達成したからではなく、この1年半ほどで、幸福を感じる力、すなわち『幸福筋』を鍛えたからだということ。

          悩める30代女子たちよ。幸せになる筋肉を鍛えよう。

          -旅と感情 vol.1- ベトナム

          旅をするとき。 見たことのない世界と、慣れない感覚から生まれる わくわくする不快感で、感情が揺さぶられる。 その感情の波を丁寧に観察し、向き合うことで 新しい自分を探していくのが、楽しい。 2022年6月。出張でベトナムを訪れた。 はじめての東南アジア、はじめての発展途上国。 この旅を一言で表すとすれば、それはたぶん 「解放」だと思う。 バイクの生態系に溶け込んで。人口よりもバイクの台数の方が多いとも言われるベトナムは、まさにバイクの生態系。ホーチミン市内のバイクの群

          -旅と感情 vol.1- ベトナム

          日本は、情報が自給自足状態にあるのか。

          なぜ日本人は、英語を喋らないのか。日本人は、自他共に認める、英語を喋らない民族である。これは個人の実体験としても感じる。海外の友人たちと話していて「ところでユリは〈日本人なのに〉なんでそんなに英語が喋れるの?」と言われたことは、一度や二度の話ではない。 特にヨーロッパでは、英語は喋れて当たり前であり、3か国語かそれ以上の言語を日常的に喋る人も少なくない。ヨーロッパの友人たちと食事をするときは、基本英語だが、英語以外の共通言語を持つ人同士が話す際はその言語にスイッチするなど、

          日本は、情報が自給自足状態にあるのか。

          『怠けたい。だって、人間だもの』って言ってる人の習慣術

          めんどくさがりだと、堂々と公言する。何を隠そう、私は怠け者の代表格のような存在である。何の謙遜でもなく、むしろそれを誇らしく思っているほどである。だから私は、何かを習慣化かしたいときに自分の意志力に頼ることは、とうの昔に完全にあきらめた。 そんな私が、この一年半をかけて習慣化して、今でも継続していることは、例えば: 瞑想 30分から40分 フランス語の勉強 30分から1時間半 スクワット 160回くらい 朝6時頃に起床して、これらが一通り終わってから仕事を始めること

          『怠けたい。だって、人間だもの』って言ってる人の習慣術

          【どうせなら、肩幅広めの肩書きが欲しい。】vol.1 建築家の可能性

          私は建築家として、何をしているか。私は、大学と大学院で建築について学んだ。学生時代は、設計課題やら論文やら研究室のプロジェクトなどに追われながら、忙しい毎日を送っていた。大学院生のときは、OMAというオランダの設計事務所でインターンをするために、1年間休学した。 要するに、建築にどっぷりである。 (建築の道に進んだ理由は、今となっては色々と述べることもできるが、有力候補は、「小学生のころThe Sims DeluxeというPCゲームにドはまりしたからです」だろうか。)

          【どうせなら、肩幅広めの肩書きが欲しい。】vol.1 建築家の可能性

          30歳女子、建築家。noteをはじめる。

          好奇心と夢。不思議な夢を見ることが多い私にとって、毎朝の目が覚めてからの時間は、夜中、頭の中に蓄積された無数のハテナとの戦いである。 『…ん?なんなんだ一体…』 私の朝イチの思考は、たいていこれだ。 色んなことをすぐに面白いと感じてしまう、旺盛な好奇心でのみ構成されている私の思考回路が、寝ている間に私の頭をハックして、夢として上映している。 内容はさまざまで、しょうもないものも多いが、なかには割とコンテンツ力が高いものもある。『おお…なんかいいものを見た』と、ほんのち

          30歳女子、建築家。noteをはじめる。