見出し画像

【短編小説】再会の時

今年の成人式は、成人の対象年齢が18歳へと引き下げられてから初めての成人式だ。

多くの自治体が私たち20歳を対象として式典を行うため、“二十歳のつどい”という聞きなれない名称になったようだけど、そんなことは正直どうでもよかった。

大学に進学してからというもの、それまで仲の良かった友達とも会うことがほとんどなくなった。

「コロナ禍で」
テレビからもこのセリフを何度か聞いたが、本当のところコロナだけが要因ではない。

地元を離れた人と、まだ地元に残っている人。
社会人になった人と、まだ学生の人。
物理的距離や金銭的な理由がほとんどっだような気がする。

もちろん、私から「久しぶりに会おう」と誘うたちではないことが最も大きな要因であった。

そんな私でも成人式で多くの友人に会うとやはり嬉しかった。

中学卒業して以来、久しぶりに話す友人とも気兼ねなく話すことができた。
再会を喜ぶ雰囲気が、私をそうさせたのだと思う。


久しぶりに再開した友人に、
「垢抜けたね」と声をかけてもらえた。

この言葉は何よりも嬉しかった。

今日のために食事を徹底管理し、有酸素運動と筋トレを欠かさなかった。
いくら体が細くなっても振り袖では体型が変化したことに気がついてもらえないじゃないか。
そう気がついてからは、顔痩せとメイクの勉強、姿勢矯正など、振り袖を着ていても変化が現れるであろう所に尽力を注いだ。

正直、ジャンクフードを食べたい日だって山ほどあった。
お腹が空いたらチョコレートを頬張りたかった。

でも、我慢した。
この日のために。


成人式。
それは私にとって再会の時だった。

ちょうど1年半前に振られた、あの人との再会の日。

これを機に寄りを戻したいとか、もう1度振り向いて欲しいだとか、そんなことはこれっぽちも思っていない。

ただ1つ。
少しでもいいから後悔して欲しかった。

コロナが原因で会える日が減ったことを理由に別れを告げたことを。

本当は私以外に気になる人がいたことを伏せて別れを告げたことを。

“可愛子が好き”なんて言いながら、結局は歳上の綺麗な人と付き合い始めたことを。


嘘で塗り固められたあの日。
綺麗だった思い出が全て崩れていった、あの日。

私は、ただただ、悔しかった。

信じていた人に裏切られた事も。
最後までうまくやり過ごそうとしていたあの悲しげな表情も。
私を選んでくれなかったことも。

好きな人に選ばれないということが、これほどまでに悔しいものだと初めて思い知った。


あの日からぽっかり空いた穴を埋めようと、ひたすらに自分を磨いた。
体の中も、外も、心も。

本もたくさん読んだ。
お金もそれなりにかけた。
まだ二十歳になったばかりだけど、お酒の嗜み方も勉強した。
自分の体ともたくさん向き合った。
自分の体に足りてない栄養をできるだけ補うような食事をしたり、それでも足りない分はサプリメントに頼ったりもした。
必要であればジムに通って専門的な知識を持っている人のもとでトレーニングをした。
『体が元気なだけじゃなくて心も元気な状態でね』
トレーナーさんが口癖のように言っていた言葉を、心の中で何度も繰り返した。


やっとこの日が来たんだ。


成人式の今日、私は20年生きた中で1番綺麗だと自負できるくらいに成長した。

大勢いる男子の中にあの人の姿を見つけた時、驚くほどに何の感情も湧かなかった。
あれほど『後悔させたい』と思った人を見ても何も揺らがなかった。

正直強がっていた部分はあった。
後悔してまた私に気持ちが揺らげばいいと思っていた。

それが本心だった。

だけど『後悔したらいい』すら思わない自分に驚いた。

大勢いる男子の中にいたあの人は“大勢の内の1人”でしかなかったから。

彼を見ても、彼と目があっても何も思わなかった。


『後悔させたい』という目標はいつしか『女性らしい大人になるため』に変わっていった。

付き合っていた頃の自信がない私はもうどこにもいなくて、今は周りの目を気にしない人に成長した。


「久しぶり」

1年ぶりに聞いた声は、私の記憶の中の人と同じ声だった。

「久しぶり。元気だった?」
私は笑顔で振り向いた。

ここでしか交わることのない彼との思い出を綺麗なものにして、終わらせよう。

この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?