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≪わたしごと79≫万差の個多

13年住んだロンドンを離れて、6月から拠点を日本に移す.

住む場所も仕事も白紙の、まっさらな帰国.

何故帰国するのかと聞かれるけれど、理由の層が入り組んでいて、日本はやっぱりいいなと思う、という曖昧な感覚だけが残る.

私は日本の文化について、無知だなぁと思う.説明を求められて説明に詰まるのは英語のせいではない.心の底で分かっていないからだ.

他に気になるのは、日本人の日本人嫌いの気.日本なんてとか、小さな島国とか随分卑下したりする.自分の根本的な自信というのは、どうやったら育つのだろう.

私の周りには日本に興味がある人がたくさんいる.一か月かけて旅行した人や、"Ikigai"や"Wabi-sabi"の概念を本で読んだり、日本食を好んで食べたりしている.その背景にあるのは、ウェルビーイングという概念だ.特にイギリスでは、ウェルビーイングの概念が職場でも私生活でも浸透してきているように感じる.

"幸せ"というと何か躊躇するものが日本語の文脈ではあるように感じるから、私は"楽しい" とか "嬉しい" とか "ワクワクする" というのが良いなと思う.楽しく働き、ワクワクしながら生きている人は、回りにたくさんいるだろうか.

私の感覚では、日本では一般的に楽しいという事が人生の価値の中で上位には無っておらず、例えば仕事では"楽しい"は休日や休暇に追いやられていて、そんな休暇でさえも自分の"楽しい" に無感覚になっているような気がする. 

"好きな事" "やりたい事" を仕事にするとか、主体的に生きるとか、そんなことを急に言われても、習慣になっていなければ、自分の現在地というのが見えないのは当然だろう.

世界は学びに満ちている.けれど、楽しんで学び発展させることが習慣になっている人は少ない.学びを楽しみ、主体的に選び、生きられる人生が、私は豊かだと思う.


帰国後、私は何がしたいのか、何が出来るのかを考える.

私はコンサバターという文化財の保存修復の仕事をしていて、ロンドンの美術館と個人の修復の工房と両方に勤務した.日本でも修復をやろうと当初思っていたけれど、どうやら日本の修復は状況が違うようだと気づく.

もっと日本の修復が知りたいと思う.その背景にある文化や伝統が知りたい.

私達は普段、自分たちの文化というものを意識しているだろうか.文化を、どのようにして自分のものとして感じ、次世代に伝えて行ったら良いのだろうか.また、何が変わらず、どんなものが新しく生まれ変わって行ったら良いのだろう.

私は、日本の "ものづくり" を通して、自分の課題に向き合ってゆきたいなと思う.

日本人の自信、幸福度はとても気になるし、アートの不要不急、工芸にまつわる職人減少、日本と海外のつながりの構築に関心がある.

日本の文化や自然観、感受性の文脈を、日本人自身が体感して何かが腑に落ちたり、気づきがあったりすれば良いし、丁寧にこころを込めてつくられたものを、文脈ごと海外に伝える活動が出来たら良い.

禅学者の鈴木大拙が、"世界人としての日本人" という事を仰っているが、共に生きるという意味で、日本のなかで培われた豊かなものを、外へと貢献するのは、とても意義のあることだと思う.

"万差の個多" とは、鈴木大拙の本で出逢った言葉で、学術的な意味は正確には分からないけれども、個が多くある状態、全体を指すけどそれぞれに違う個が心地よくそこに共存しているイメージで良いなと思った.そんなビジョンを描いて.

豊かに生きるって何か.見つけたかけらを共有していける人でありたい.

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