【感想】大人の読書感想文【六人の嘘つきな大学生】

・著書 六人の嘘つきな大学生

著者 浅倉秋成 出版 KADOKAWA

IT企業「スピラリンクス」の最終選考に残った波多野祥吾は、他の五人の学生とともに一ヶ月で最高のチームを作り上げるという課題に挑むことに。うまくいけば六人全員に内定が出るはずが、突如「六人の中から内定者を一人選ぶ」ことに最終課題が変更される。内定をかけた議論が進む中、発見された六通の封筒。そこには「●●は人殺し」という告発文が入っていた──六人の「嘘」は何か。伏線の狙撃手が仕掛ける究極の心理戦!

六人の嘘つきな大学生 文庫版 裏表紙

・感想

 僕には友達が一人もいない時期がありました。

 いえ、厳密に言えば友達はいましたが、中にはいませんでした。

 高校生の頃、少々拗らせてしまった時期が僕にはありまして、結果としてそれが原因で、高校生活において僕には友達と呼べる人物が一人もいませんでした。

 環境のせいではありません。今に思えば、周りの人たちは、多少乱暴な生徒もいましたが、だからといって事件を起こすわけでもなく、こんな僕にも声をかけてくれた人たちに対して、僕の抱いた感情はなんとも陳腐なものでした。

 人付き合いがわからなくなったまま、大学生となり、サークルにとりあえず入ったはいいものの、三年生になった頃には顔を出さなくなりました。

 高校生の時とは違い、友達も三人ほどできました。数が多ければ正義とは思ってはいませんが、少ないよりかは多いほうがいいくらいには思っています。

 だから、決して多くはない友達を大事にしましたが、その友田にも別の友達がいて、その事実を知った時、僕は一歩足を引きました。

 結局、中学からの、今でも関係が続いている友人との関係に甘やかされて育った僕にとって、社会とはとても──とても生きにくいものであったことは、言わずもがなです。

 周りの目を気にし、愛想を振りまき、同僚という立ち位置を不動のものとしてきた僕は、高校生のまま、何一つ成長してはいないのです。

 自分はこんな人間なんだ! こんなにも魅力的な人間なんだ!

 そんなことをどこか心の片隅で思いながら、今もこうして『嘘』を吐き続けています。

 だから、言葉で言えないのなら、文章で書こうと思ったのです。

 僕の紡ぐ文章は、正真正銘──本心です。

 それがいつの日か言葉に昇華する瞬間を、ぜひとも皆さんと共有したいですね。

『六人の嘘つきな大学生』
 作品──それは小説や映画、ゲームをプレイしている時、体が震える瞬間があります。

 興奮のような高まりとは違い、悪寒のような身の毛もよだつ感覚とも違う。形容するには言葉を知らなさ過ぎる僕ですが、ありていに言うなら──感動です。

 感服と言い換えてもいいほどに、今作品には打ちのめされました。

 就職活動は、日本人の過半数が経験したことがある文化であり、そして経験したことがない人間にも、就職活動の持つ異常性は理解できていると思います。

 生きるか死ぬか──大袈裟でもなんでもない、そんな一幕を抽出した今作品。

 きっと、人の本性が一番出にくいであろう場面に、封筒というアイテム一つ投下しただけで、ここまでサスペンスフルな展開になると誰が想像した。

 誰もが六人を嫌いになり、そして最後には──好きだと胸を張って言えてしまう。

 切り取り方、切り取られ方一つで人は善人にも悪人にもなれる。そんな事実がこの上なく気持ちよく、自分に照らし合わせてみた時、きっと僕は──善人なのだと確信した。

 笑顔の裏でどんなことを思っていようとも、他人にはそれが笑顔にしか見えていないというのは、とても滑稽で、狡猾で、高尚な行為なのだと、僕は心に刻んだ。

 だって、それがどんなに『嘘』であっても──それが本当の自分なのだから


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