【感想】大人の読書感想文【ななつのこ】

・著書 ななつのこ

 著者 加納朋子 出版 東京創元社

表紙に惹かれて手にした『ななつのこ』にぞっこん惚れ込んだ駒子は、ファンレターを書こうと思い立つ。わが町のトピック「スイカジュース事件」をそこはかとなく綴ったところ、意外にも作家本人から返事が。しかも、例の事件に客観的な光を当て、ものの見事に実像を浮かび上がらせる内容だった―。こうして始まった手紙の往復が、駒子の賑わしい毎日に新たな彩りを添えていく。

 ななつのこ 裏表紙

・感想

 日常生活に潜む些細で大きな不思議。僕自身、出勤時にいつも通る道、いつも使う電車、いつも通う職場があり、人の波、天気、職場の雰囲気に差異はあれど、異変はそうそう感じません。
 
 それでも時折、あれは一体なんだろう? 何をしているのだろう? と、感じる瞬間があります。

 雨の日、ビニール傘を二本持つサラリーマン。
 電車のホームで腰を落とし、下向く若者。
 信号が青に変わっても渡らない女性。

 目を奪われるそんな光景に、僕は勝手ながら想像を膨らませます。

 ビニール傘を二本持っているのは、会社に置き忘れた傘を持ち帰っているから、と。
 下を向く若者はきっと、お酒を飲み過ぎたのだろう、と。
 信号を渡らないのは、誰かを待っているから、と。

 推論が的を射ているかはどうかはわかりません。もちろん、僕が少しの行動力と羞恥を犠牲にすれば、正誤判定可能なのですが、残念ながら僕にそこまでの貪欲さはないのです。

 それでも好奇心は大勢で、聞けば答えてくれる存在を、僕は夢見たりもしましたね。

『ななつのこ』とは、正に僕の夢見た空想を、文章にしてくれたような作品でした。
 
 主人公・入江駒子の抱いた疑問に、佐伯綾乃さんが手紙で返答してくれる。

 文通にも似たやり取りに、時代を感じ、懐かしさを感じ、そして──儚さを感じました。

 文通は現代では廃れ、メールにDM、ショートメッセージが文章を送るフォーマットとして普及しています。わざわざ紙に文章を書く時代はとうに廃れた。それに悲観する気もなければ、否定もできません。

 だって、僕自身も現在、パソコンの前でキーボードを使い、この文章を作成していますからね。現代人に一言とはならないものです。

 手紙という要素を加えることによって、問題提示と解決編の棲み分けがはっきりし、読者に一体全体何が謎なのかを理路整然伝える。そして、ミステリではお馴染みである、作者と読者との対決構造。手紙の返答を解決編に置き換える。つまり──問題提示の段階で、読者は問題を解けるようになっている。対決構造は、探偵ミステリの専売特許ではないと思い起こさせるのもがありました。

 ちなみに僕は、一問も解くことができませんでした……。

 日常の謎。僕が初めて読んだミステリが、日常の謎を題材にした作品でした。そして、僕がミステリにはまるきっかけとなったのです。別世界の話のようであって、でもどこか自分の住む街の話のようでもあるそんな作品を、僕はこよなく愛します。

 加納朋子さんのことは『月曜日の水玉模様』という作品で知りました。偏食家の僕は、文章にもそのきらいがあり、作品によって選り好みしてしまうのですが、加納さんの文章には舌鼓を打ったほどの満足感がありました。なので、次の日には書店で、加納さんの著書を衝動買いしたのですが、これもぼくの悪い癖であり、いつか治さなければいけない病なのですが、まぁ簡単にいってしまいますと、積み本というやつですね。

 時間がないを言い訳に、読書からゲームから映画鑑賞から距離をおき、空き時間にYouTubeをボーと見る生活が続いていましたが、改めて読書の魅力、活字の持つ力、読破後の余韻を思い出させてくれた、そんな一冊です。

 未読の方は是非、一度お手に取ってみてはいかがでしょうか。

 そして、カラスが鳴く理由を今一度、考えてみてはいかがでしょうか。


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