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両丹日日新聞連載13(2022年11月)

今日の暮らしを一汁一菜に

一汁一菜の宿 ちゃぶダイニング 安達 伸子 (綾部市)

 一汁一菜の食生活をかれこれ6年ほど続けています。最初に簡単な自己紹介を。茨城県水戸市に生まれ育ち、大学進学を機に東京に出て医療機器メーカーなど数社に勤務しました。便利・効率・刺激・消費に重きが置かれた都市型の生活に疲れ、会社員当時に知り合って結婚した夫と移住先を探したのち、昨年夏、「半農半X」が生まれた綾部市の古民家に移住。夫婦二人で、小さな自給農と農家民宿を営む「半農半民宿」をしています。屋号にも入っている「一汁一菜」について、何なのか、始めたきっかけや続けている理由、どんな良さがあるのかお伝えしたいと思います。

 私たちの朝晩の食事は、土鍋で炊いた三〜五分づきのご飯、手前味噌と地元産の旬の野菜がたっぷり入ったみそ汁、それに自家製ぬか漬けや梅干しです。昼は野菜たっぷりのめん類です。肉・卵・乳製品・砂糖は使わず、魚は時々食べます。

 きっかけは、陰陽の考え方にもとづいた料理を伝える若杉友子さんの料理教室に夫婦で参加したことです。若杉さんの教えを実践してみたらどうなるか試してみようと、家にあった土鍋を使ってご飯を炊くところから始めました。よく噛んで、量もしっかりと食べるようにしたら、お肉なしでも意外なことに物足りなさはありませんでした。むしろ、お肉を使わないことで調理道具の洗い物が楽で、品数も少ないため片付けも短時間で済むようになりました。ご飯を炊いている間に、台所にある野菜を適当な大きさに切り、昆布を入れた出汁で火を通し味噌を入れたらみそ汁が完成、あとは梅干しでもあれば体裁がととのいます。常備菜があったら冷蔵庫から出し、余裕があればぬか漬けをかき混ぜて一品増やしてもよいし、疲れていたら無くてもOK、という手軽さです。

 一汁一菜の良さをひと言で表すと、簡単で、おいしく飽きない、そして健康に良いことです。レシピ要らずで、料理の得意不得意にかかわらず実践できます。 旬の食材を使うので経済的でもあります。見た目の派手さはないものの、食べる立場からしても、旬の野菜が変わればみそ汁の中身が変わり季節を感じられますし、どの具材を選んでどのように切るか、どんな組み合わせで入れるかは氣分次第でよく、毎回全く同じみそ汁が出来上がるわけではありません。その日、その時の味をよく噛んで味わうのが楽しかったりします。分づき米のご飯も、よく噛んで食べると甘いんです。一汁一菜の食事に切り替えてから、体調の変化もありました。お腹いっぱい食べても胃がもたれず、お通じがよいです。夫は体重が15キロほど減り、見た目も若くなったと言われます。



 宿には京阪神や首都圏、はたまた海外からお客様が来てくださいます。一緒に食べる夕食や朝食も、普段とあまり変わらないシンプルなものです。一汁一菜を体感してほしいという思いもありますが、私たちにとって肩肘張らずありのままのおもてなしができるからでもあります。一汁一菜は、背伸びせず、あるものやできることを活かすというライフスタイルともつながっています。

 旅の楽しみは豪華な食事だという方は多いと思いますが、ご馳走続きで食べ過ぎて苦しくなった経験をした方も多いのではないでしょうか。里山の風景に囲まれた築100年を超える古民家の宿には、都会にはない、五感がフルにはたらく「刺激」が溢れています。あるお客様の表現を借りれば、ここでは「すべてが非日常で刺激的、でも心が落ち着く」。お客様にとっては非日常の空間で、私たちの日常を感じていただく。その日の暮らしを一汁一菜の食事の中に感じて、今日もがんばろう、充実した1日だったなって味わえたらこれ以上の幸せはないと思うのです。

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