シェア
仄映ゆら
2024年2月27日 07:21
彼女は私を見ていないが、私を愛している。 私は彼女が視えていても、愛に触れられない。 燃える茶室の中で、私は彼女に身をまかせ、常夏の夜咄に耽った。 雨のしとどに降る庭に、小走りで駆け込む。お天道様が汗ばんでいるような居心地の悪い空気である。青々と苔むした地面。飛び石の傍で、しきりに揺れるシダや熊笹の露を弾きながら、漸く玄関にたどり着く。「すみません、遅くなりました」 網戸を開け、声を