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老後の恋心は何色

どんなに年を取っても、恋心というのは消えない。
そう感じたのは、この介護の仕事を始めたての10代の時。

右も左もわからない僕は、利用者と話したり、食事の配膳をしたりと
介護助手のようなことしかやらしてもらえなかった。

まだ仕事という認識もなく、サボろうと考えたりしては、利用者の居室で時間をつぶして遊んでいた。

よく遊びに行っていたのは、もう100歳を過ぎたおばぁちゃんの居室。
杖で歩行はできるのに、車椅子にしてくれなど、わがままばかり。
気が強い介護スタッフと、よく言い争いしていたのを思い出す。

そんな問題ばかりの利用者でも、僕の前では優しく素直だった。
よく昔の戦争の話、家族の話を楽しそうに話しては、涙することもあった。

しかし、そうやって楽しく話ていられるのも、一瞬。
次第に、わがままも少なくなり、ベット上で過ごすことが増えていった。
まだ何もわからない僕は、もっとサボる時間が増えて、利用者の居室で椅子に座って話かけたりして過ごした。

主任や責任者からは、よく思われないないのも当たり前。
まだ若いから勉強してきなさいと、系列の施設へ移動の話が決まったのも一瞬のことだった。

移動が決まっても、僕は変わらず利用者の居室へ行き続けた。
移動する最終日、いつもと変わらず明るい感じで、移動する話をして
サボれたからありがとう、などふざけながら報告した。

利用者のおばぁちゃんは数秒、黙り込んで目を閉じて、深いため息をついた。
ゆっくりと目を開け、ゆっくりと話しはじめた。

「迷惑かけたこともわかっていたけどね、あなたが好きだったんだよ。
 こんな性格だから、誰も相手にしてくれない。家族には見放されて、こん
 なところに入っても一人。さみしかったんだよ。あなた、あたしと同じくらい嫌われただろ?そんなことでも一緒って幸せなんだよ。ありがとう。ま
 だ若いんだから頑張りなさい」

話終えてから突然。

「最後くらい、いいだろ」

目を閉じて、唇を出して来たのを、今でも焼き付いている。







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