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『僕と私の殺人日記』 その17

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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家ではおかあさんとおとうさんが暇そうにテレビを見ていた。良太はゲームをしている。

「おかあさん、ごはん!」

遊び終わったリナちゃんのおなかはペコペコだ。しかし、おかあさんが料理を作った雰囲気はない。

「テーブルに置いてあるでしょう。それ作って」

言われた通りテーブルを見ると、三分で出来るカップ麺が置かれていた。 おかあさんは完全に平日モードなようで、突如休むことになった子供もの分まで作 る気はないらしい。

「手抜き! ズボラ!」

リナちゃんは抗議しながら、やかんに水を入れてコンロのつまみをひねる。コンロに オレンジの火が点き、すぐに青くなった。 お湯が沸き、カップに注いで三分待つ。どうやらリナちゃんはその三分が嫌みたいで、 家の中をうろうろしていた。時間が経つと、ふたを開き、ズルズル麺を啜って、あっという間に食べてしまった。 部屋に戻った

リナちゃんは、外に出掛けることにした。じっとしているのが苦手なようだ。 窓の下には、家へ入った時に脱いだ靴がある。汚れた靴下が突っ込まれた状態だ。新しい靴下を履いたリナちゃんは靴の上に下りて、中の靴下を部屋に放り込んだ。 家から出たリナちゃんは山を駆け下りる。手にはサバイバルナイフがしっかり握られていた。

懲りずにまた、人を殺す気のようだ。 田んぼ道をずんずん歩いて行き、一つの民家を見つけた。敷地に入り、そっと壁に耳を当てる。

「学校ないと張り合い無いなー。今度こそ、リナをぎゃふんと言わしてやる」

その声は権太くんだった。どうやら権太くんの家のようだ。リナちゃんをいじめられなくて暇そうにしていた。

リナちゃんはどこから侵入しようか考えを巡らす。すると、勝手口がわずかに開いてい るのを見つけた。前と同じミスをしないように、ナイフの柄から刃を出しておく。

静かに扉を開け、室内に入る。台所のようだった。だれもいない。 靴を脱いで、扉近くに積んであった新聞紙の束と壁の間に隠した。 台所のテーブルには醤油や食べ終わった後の皿が何枚か乗っていて、冷蔵庫の機械音が空気を震わせていた。

権太くんの部屋に行くために歩き出す。台所の出入り口から廊下へ足を踏み入れたその時、 物音がした。 リナちゃんの背筋が伸びる。

それは足音だった。女の人の鼻歌も聞こえる。音が台所に近づいて行く。リナちゃんは慌てて室内を見渡し、テーブルの下に隠れた。 テーブルには布がかぶせられていて、立っている人にぎりぎりその下が見えない長さで垂れ下がっていた。テーブルに納まっている木の椅子に身を隠す。近づく足音に、リナち ゃんは息を飲んだ。

布の端から人の足が見えた。テーブルの方へ真っ直ぐ歩いて来る。足はテーブルのすぐ目の前で立ち止まった。リナちゃんとの距離はわずか三十センチくらいだった。

今のところ気づかれていないようだ。
上の方でカチャカチャ音がする。どうやら食器を片づけているらしい。 足の正体は恐らく権太くんのおかあさんだろう。流し台で皿を洗い始めた。

リナちゃんはナイフをおばさんに向ける。標的を変更したみたいだ。布の端から背中が見えた。テーブルの下を慎重に這って、その背中を狙った。 あと、もう少しというところだった。テーブルから出ようとした瞬間、何かが擦れるような音がした。肘に木の感触がする。

リナちゃんの顔がゆがんだ。木の椅子に肘が当たり、 椅子の足が床と擦れたのだ。 おばさんが音に気づいて振り返る。布の端から身体の正面が見えた。 見つかるのを覚悟したその時だった。

「ごめんください」

だれかが訪ねて来たようだった。その声を聞いて、おばさんは「はーい」と言って、玄 関の方へ歩いて行った。 間一髪で危機を逃れたリナちゃんは、急いで靴を履いて外に出た。ナイフは折り畳んでポケットにしまう。

リナちゃんの一連の行動を見ていたぼくは、死にそうだった。冷えた肝とは裏腹に心の中のぼくの心臓は熱く、激しく高鳴っていた。

玄関の方から声がする。気になったリナちゃんはよせばいいのに、声の主を見ようとし ていた。壁の曲がり角から細心の注意を払って玄関を覗く。視界に映ったのは今朝にも会った、こわもてのおじさんだった。その横に部下らしき二人の警察官も立っていた。田んぼ道にはパトカーが止まっている。

こわもておじさんはおばさんに何か聞いた後、どこかへ向かって行った。 再度の警察に、リナちゃんは不安を抱かずにはいられなかった。暗くて泣きたくなるような感情が伝わってくる。

とにかく家に帰ろう。 そう決断し、リナちゃんは家の方向へ走った。


続く…


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