見出し画像

『僕と私の殺人日記』 その19

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


木曜日

深夜二時。それは草木も眠る丑三つ時。
みんなが寝静まったのを確認したユウくんは、窓から外に出た。その手には懐中電灯が握られている。 山を下りて、昨日ユイカちゃんと約束した木の下へ向かった。

あの昼の出来事には、ユウくんもわたしも驚いた。ユイカちゃんはわたしが殺人犯だと気づいていたのだ。それにも関わらず、警察から庇ってくれた。動揺したユウくんは下を向いていた。 それを見て、ユイカちゃんは「ユウくん」と語りかけた。わたしたちが別の人格だとい うことまで、なんでもお見通しだった。

「ごめんね。本当は気づいてたの。少し前からリナちゃんらしくなかったから、もしかしてって。『今』はユウくんなんだね?」

「・・・うん」

「リナちゃんたちがやってること、だれにも言わないから安心して。その代わり、ユイカ にも手伝わせてね!」

「え?」

「人殺し。殺される側もスリルがあっていいけど、殺す側もきっと爽快感があって楽しそ う!」

「ダメだよ! 殺すことは悪いことなんだよ!」

「なんで? 朝、ヘビ殺しゲームの時は嫌がらなかったじゃん。とにかく、夜の二時にまた会おう。警察が来れないようにするから」

結局ユウくんは言い返せず、ユイカちゃんと別れた。 家に帰ってからは、何か難しいことを考えていた。勝手に外へ出たことをおかあさんに 怒られていたけど、ほとんど聞いていないみたいだった。

夜になってもユウくんは起きていた。しばらく考え込んでいて決心がついたのか、窓を開けた。ユイカちゃんを止めようとしているのが、わたしに伝わってくる。

残念だとわたしは思った。

山を下りたユウくんは田んぼ道を走る。夜の田んぼから蛙の大合唱が村全体にこだましていた。 懐中電灯の明かりが、ポツンと生えている大きな木を照らす。その下に一つの人影が佇んでいた。

「あ、リナ・・・ユウくん? どっちかわからないけど、こんばんは!」

相変わらずユイカちゃんは元気に話しかけてきた。

「ユウだよ」

「ユウくんね! ちゃんと約束、守ってくれてうれしい!」

「その・・・違うんだ。ここに来たのは断るためなんだ・・・」

ユウくんはぎゅっとこぶしを固めて言った。

「ええ! どうして? 警察に捕まっちゃうよ。ユイカ、しゃべっちゃうよ?」

「覚悟ができたんだ。だからもう絶対に人を殺さない・・・」

「そうなんだ・・・。じゃあ仕方ないね。ところでこれ、あげる」

そう言ってユイカちゃんが手渡してきたのは、幅が一センチくらいになるまで軽く折り畳まれた紙だった。ユウくんは不思議に思ってそれを受け取る。

「それを開かずに、しっかり折ってみて」

「こう?」

ユイカちゃんの言う通り、ユウくんは力強く、紙の端を指で押した。

その瞬間。電流が走ったかのように、スイッチを押されたかのように、身体の感覚がわたしの元へ戻った。

「こんばんは! リナちゃん!」

「こんばんは。ユイカちゃん」

どうやらユイカちゃんは、入れ替わりのルールも知っていたらしい。紙を広げると一匹の蟻が潰れていた。

「わたしに協力してくれるの?」

「うん! だからまず、警察が村に来られないようにしたいんだけど、どう?」

「いいわね。ぜひ、やりましょう!」

わたしとユイカちゃんは、村、唯一の出入り口へ向かった。


続く…


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?