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『僕と私の殺人日記』 その28

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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「ふ、ふざけんじゃないわよ!」

これは男子たちの罠だったようだ。一人がトイレの中から鍵をかけて、外にいたもう一 人が脱出を手伝ったのだろう。昼が来るまでの時間稼ぎだ。その罠に小さな殺人鬼は、まんまと引っかかってしまった。

「だとしたら、二階か!」

リナちゃんの怒号はまさに鬼そのものだった。 この学校は二階建てになっている。小さい学校なので町の学校と違い、二階までしかない。二階には音楽室や理科室、図書室などがある。

上に行くための階段は二つある。下駄箱の近くと教室の近くにある階段だ。リナちゃん は教室近くの階段にいた。 ユイカちゃんは先に二階を探しに行っいる。下駄箱近くの階段で上って行った。 男子が反対の階段から逃げた様子はない。もし下りてきたら一階にいる自分が気づくはずだ。

リナちゃんはそう考えながら、階段を上った。 二階に上がると、ユイカちゃんがいた。まだ、だれも見つけていないようだ。

「ユイカちゃんいた? 一階はいなさそう」

「こっちもまだ。だけど、手がかりを見つけたわ」

男子に聞かれないよう、囁きながら話す。ユイカちゃんは音楽室を指差した。

「おかしいのよね。あそこっていつも空いてるじゃない。好きに楽器を演奏していいように開けとくね、って音楽の先生が言ってたでしょう? なのに、鍵がかかってるの。それはなぜだかわかる?」

「入った後、鍵をかけたってこと? だとしたら、一階の教室もいるかもしれない。全部、 鍵がかかってた。って言うか、反則じゃない!」

「ふふっ。ユイカたちを勝たせる気はないみたい。困ったわー」

言葉とは裏腹にユイカちゃんは楽しそうにしていた。リナちゃんも余裕の笑みを浮かべて、この状況を楽しんでいた。まるで子豚を狙うオオカミのように。

「さーて、どうしよっか、リナちゃん。反則されちゃったよー?」

「そうね。仕方ないわ。残念だけど、本当に残念だけど、ね!」

ガシャン。

激しい音が校内に響き渡る。ガラスの破片が砕け散った。リナちゃんが持っていたナイフで、音楽室の扉についているガラスを割ったのだ。そこから破片に当たらないように内側の鍵に手を伸ばして、開錠する。

扉を開けると、しんと静まり返った音楽室があった。室内にはピアノや木琴、ラッパ、太鼓などの様々な楽器が置かれ、壁にベートーベンやモーツアルトの有名な音楽家の写真が貼られている。薄暗くて、物が勝手に動き出しそうな不気味さがあった。

「出てきなさい。ここにいるはわかってんのよ!」

リナちゃんは声を飛ばして気配を探る。ナイフを向けて、一つひとつ楽器の下を確かめる。

すると音楽室のどこからか、カタッ、と音がした。何かが当たった音だった。

「そこか!」
鉄琴にかけられていた布をはぐる。ほこりが舞い、楽器の下が露わになった。 そこにだれもいなかった。

「はずれか」

「リナちゃん! ピアノの下!」

ユイカちゃんが叫ぶ。ピアノと椅子の間の空間に、体育座りで隠れていたノブ夫くんがいた。

「みっけ!」

うれしそうにリナちゃんはナイフを握りしめる。それを見たノブ夫くんは、凍りついていた。

「リナさん・・・? それはおもちゃですよね? 殺されるというのはゲーム的な意味で・・・」

リナちゃんの返答は悪魔の笑みだった。ナイフをノブ夫くんの首に突き出す。逃げようとノブ夫くんは動き出す。刃先がその首をかすめ、赤い水滴がピアノに飛び散った。

「ああがっ! く、びが、あ・・・つい」

切られた首を押さえながら、ノブ夫くんは床に倒れ込む。ひょろ長い身体がしびれたように震えていて、眼鏡の向こうにある瞳は恐怖色で染まっていた。

「ルールは守らないとダメだよ。見つかったんだから、ちゃんと殺されてね!」

ユイカちゃんが暴れないように、ノブ夫くんの長い手を掴んで押さえる。 リナちゃんはノブ夫くんに覆いかさぶって、ナイフを何度も振り下ろした。声にもならない悲鳴が音楽室を満たす。

ぼくはこの時を待っていた。リナちゃんがだれかを殺せば、ぼくと心が入れ替わる。それを利用してもう一人を逃がすのだ。ぼくにできることはそれしかない。

ごめんなさい、 ノブ夫くん・・・。

「小さな兵隊さんが二人、首を切られて、残りは一人♪ 小さな兵隊さんが一人、自分でおなかを刺して、そしてだれも・・・」

ユイカちゃんがうれしそうに、懐かしそうに歌う。それは何かを暗示させるように、ぼくの頭の中に染み込んでくる。

「わあああああ!」

突然、室内から男の声がした。木琴にかけられていた布からだれかが飛び出す。そのだ れかは音楽室の扉を通って出て行った。

「あれは権太くん?」

歌うのを止めてユイカちゃんが不思議そうに、走っていく権太くんを見た。どうやら、 二人して同じ場所に隠れていたらしい。一人が見つかっても、もう一人は違う場所に隠れていると思う鬼の考えを、逆手にとった作戦なのだろう。

しかし、リアルかくれんぼでは逆効果だったようだ。目の前で友だちが殺されるところを見てしまったのだ。平常ではいられない。権太くんは恐ろしくなって、その場から逃げ出した。一刻も早く殺人鬼から離れるために。

「待ちなさい!」

すぐにリナちゃんが追いかける。ノブ夫くんは首や胸を刺されて、目を開けたまま死んでいた。


                 続く…


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