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『僕と私の殺人日記』 その20

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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村と町をつなぐ道は、山を掘って作られた小さなトンネルだ。かなり昔につくられたよ うで年季が入っていた。古いコンクリートが重い山を支え、かろうじてトンネルのかたちを保っている。

トンネルの中を覗くと、不気味な雰囲気が漂っていた。奥の方は月明かりが闇に溶け込んで、終わりがないように見える。 意を決してトンネルに入る。光を拒絶した世界が外界とのつながりを切り離していた。

懐中電灯で照らさないと進むこともままならない。このわずかな光がわたしたちの命綱なのだ。 トンネルはけっこう長い。わたしは何度か、買い物でおとうさんと一緒に通ったことが ある。車で走ってもなかなか、出口から出られなかった。

だけど夜のトンネルはそれを超えるほど、恐ろしく長い。足がすくんで早く歩けないの だ。大きく反響する足音が余計に不安を駆りたてる。今、どこまで歩いたのかもわからない。ただ、闇がそこにあった。

「確か・・・この辺りに・・・、あった!」

ユイカちゃんが声を上げる。 懐中電灯で照らした先には大きなヒビがあった。わたしの腰の辺りから大人の身長くらいあるヒビが、しっかりと刻まれていた。亀裂の間には深い闇が隠れ住んでいる。

「そこに・・ですこれを・・・」

壁に光を当てながらユイカちゃんは、ヒビの大きさを確かめる。すると、どこから持ってきたのか、ダイナマイトを隙間に差し込んだ。

「ちょ、なんでこんなもの持ってんのよ!」

「知らないの? 数日後にトンネルの工事があるの。もう古くて危ないし、小さくてトラックが通るのも大変だから新しく作り直すって。それで、村の使わなくなった家を工事の物置にしてるのよ」

そういえばおとうさんが、工事をするようなことを言っていた。 ユイカちゃんの話だと、この山の地盤は固いらしく大きいトンネルにするためには、ダ イナマイトで爆破して穴を広げないといけないそうだ。ダイナマイトはユウくんと別れた後に、その物置から持ってきたらしい。

わたしもダイナマイトを持ってみる。火薬が入っている筒はざらざらしていて、ちょっとした衝撃で今にも爆発しそうだった。

震える手を押さえて、慎重に割れた壁に突っ込んでいく。 ダイナマイトには雷管というものがついていて、少量の火薬が入っている。つまり、起爆の役割を果たしているのだ。逆にいうとそれがなければ爆発しない。

その雷管にコード がついていて着火装置につながっている。ユイカちゃんがわかりやすく教えてくれた。

所どころ、できているヒビにダイナマイトを刺し終わると、コードを持って外へ出た。

そして、十分離れたことを確認して着火装置を起動させた。 わたしはぎゅっと目を瞑る。

数秒後、おなかに響くような音と振動が伝わってきた。地震が起きた時みたいに地面が揺れる。凄まじい音とともにトンネルが崩れ落ちた。

その衝撃で流れてきた爆風が砂やほこりを飛ばしてきて、わたしは咳き込んだ。瞑った 目を開けて、崩壊したトンネルを見る。

大成功だった。ユイカちゃんとハイタッチして、うれしさを分かち合う。もうこれで、 あの恐い警察官はここに来られない。

その後、コードや着火装置を回収して、急いでその場を離れた。 トンネルに近い民家の窓から、明かりが次々に灯っていくのが見える。爆発の音で住人 が目を覚ましたようだ。

わたしたちは回収したコードなどを川に捨てて、家へ走る。音に気になった人たちが外へ出て来ていた。懐中電灯の電灯は切ってある。見つからないようにするためだ。

月明かりを頼りに、薄暗い田んぼ道の中を走った。 ひんやりとした風が気持ちよくも、冷え性のわたしには少し堪えた。

腕を擦りながら、 ユイカちゃんの後ろを必死に走る。田んぼに反射した真ん丸の満月が、田んぼの数だけその姿を映す。蛙の鳴き声が警報を鳴らしているみたいで落ち着かなかった。

その時、まぶしい光りがわたしの顔を照らした。外に出てきた住人が懐中電灯周りをで照らしていたのだ。ただ、それは一瞬のことで、相手がわたしに気づいたかは定かではない。

それでも不安が頭をよぎり、走る足が鈍る。 前を走っていたユイカちゃんが、わたしの手をにぎり「大丈夫だよ」と引っ張ってくれた。後ろを振り返ると追ってくる様子は無いので、安心した。

「ユイカ、こっちだから、またね」

ユイカちゃんの家は村の中心だ。さすがにあの爆発音は届かない。ここまで来れば安全だ。

「うん。またね」 お別れをして、ユイカちゃんとわたしはそれぞれの家へ帰った。


続く…


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